『東京タワー』終わりを迎えた透と耕二の“最悪の夏” 永瀬廉と松田元太の対照的な涙
自分たちの関係性の不安定さに改めて涙する透(永瀬廉)
自分が知らない詩史の過去や思い出があることさえも悔しく恨めしく、もっと自分がその中にいられたら……「もっと早く生まれたかった」と溢す透に対して、「私はあなたの未来に嫉妬してるのよ」と呟く詩史。全てがまだ固定されておらず、何にもなれて、自分の元から軽やかにどこまでも羽ばたいていける透の未来に自分がいるはずはないと、詩史も詩史で嘆いているのではないだろうか。彼女からすれば、自分が嫌いな“ゴルフをする男の人”である英雄との夫婦生活も当然のごとく固定されているもので、若い透には持ち合わせていない“荷物”のように思えるのかもしれない。 しかし、透は透で、母親・陽子(YOU)から目ざとく「似合わない」と一蹴された詩史からの海外土産のTシャツのように、何とか背伸びしてみたところで、詩史の思う未来に自分がいないだろうと予感し、自分たちの関係性の不安定さに改めて涙する。 浅野夫婦の磐石さに触れる度、自分はあくまでサイドストーリーであることをまざまざと感じさせられるのだろう。また英雄の目を逃れられ自分が無傷でいられたことは、同じく詩史もまた何も失っていないことになる。 浅野夫婦が一緒に過ごす別荘を後にし、夜道をとぼとぼ歩く透の姿は、まさに彼がいなければ“元通り”で、たまたまアクシデント的に交わった異分子は自分の方だという事実に一人向き合う道のりのようだった。それに静かに抗いながらも、どこかで受け入れ涙する透と、感情剥き出しで大泣きしていた耕二は対照的だった。 花火が終わった後のあまりの静けさに、去りゆく夏にすがり付きたくなってしまうものだが、彼らのそれぞれの消化不良な想いはどこに向かうのか。
佳香(かこ)