バルト海は「NATOの海」に:スウェーデン加盟がロシアに与える打撃
軍事・技術強国
スウェーデンは欧州でも指折りのハイテク産業国だ。自動車、家具、機械など民生用の製品でも世界的競争力を誇り、軍事分野でも加盟国の期待を裏切らない力量に富んでいる。英米にひけをとらない最新型戦闘機や、水中能力の高さで折り紙付きの攻撃型潜水艦をはじめとして、主要な兵器や装備は自力で開発・生産してきた。国民の国防意識も高く、冷戦時代にはバルト海で旧ソ連潜水艦を何度も追い回して苦しめた武勇伝がある。 冷戦中はソ連の脅威に対応するために国防支出が国内総生産(GDP)の3%に達した時期もあったが、冷戦終結後は予算を大幅に削減していた。しかし、2022年以降はNATO加盟手続きと並行して、再びGDPの2%超をめざす国防増強路線に転じた。先に加盟を果たしたフィンランドも昨年以来、国防予算の拡大に努めている。また、米国は昨年末、両国との間でそれぞれ防衛協力協定を結び、米軍が両国の海・空軍基地を使用したり、有事に備えて米軍の武器や装備(核を除く)を備蓄したりできるようになった。いずれもウクライナ侵略が両国の世論を加盟に向けて大きく促した結果といえる。
「NATOのアキレス腱(けん)」もカバー
加盟国の中でスウェーデンに最大の期待を寄せているのは、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国だろう。この三国はロシア、ベラルーシと国境を接している上に、ロシア系住民も多く抱えることから、「ウクライナに次ぐプーチンの標的」とみなされ、政府も国民も脅威感の高まりにさいなまれてきた。 その大きな理由となっているのが、リトアニアとポーランドの国境に沿った「スバウキ回廊」と呼ばれる地域だ。回廊の長さは約65kmにすぎないが、ベラルーシとカリーニングラードを陸路で結ぶ重要ルートだ。この回廊をロシア地上軍に制圧されてしまうと、バルト三国は他の加盟国から切り離されて陸の孤島と化してしまうからだ。このため、スバウキ回廊は「NATOのアキレス腱(けん)」とも呼ばれてきた。 「NATOの海」は、この危機を打開する切り札となる。スウェーデンを軸とするNATOの多国籍部隊が編成され、ゴットランド島を拠点に海・空両面でバルト三国に支援部隊や救援物資を急速かつ安定して供給できるようになると期待されている。北欧4国の空軍は既に昨年3月、防空態勢の連携強化を図る方針で合意した(※2)。今後はこうした想定に立って、NATOの共同作戦構想づくりが進められることになるだろう。