注意されても、酒もタバコもやめなくていい…和田秀樹が「医者の言いなりでは人生を損する」と説く理由
■医者の言う「基準値」を緩めてもいい 本当の自分が、どんなことをしてでも長生きしたいと本音で思うなら、医者の言うことを聞いてもいいでしょう。ただ、実は統計データと反することを医者が言う(たとえば、宮城県の大規模調査でやや太めのBMI25~30未満の人がいちばん長生きしているというデータがあるのに、BMI22の標準体重を目指せというようなことを言う)場合は、長生きを優先するなら医者の言うことより、統計データにしたがったほうがいいとは思いますが。 本当の自分が、そんながまんをするくらいなら、そこまで長生きできなくてもいいと思うのであれば、医者の言うことは聞かなくていいのです。 もちろん、自分も多少の不安があるので、一部だけなら聞くというのもありでしょう。 たとえば、お酒はやめられないが、減塩しょうゆを使うとか、薬を飲むのならがまんできるので、そのあたりで妥協する(本当の自分であっても妥協することはあっていいと思います)ということはしていいと思います。 あるいは、医者の決めた基準が厳しすぎるので、それをちょっと緩めるという考え方もあります。 私の場合は、血圧が正常まで下がると頭がぼんやりするのですが、元の血圧(最高血圧220mmHg)なら明らかに心不全に悪いので、薬を飲んで170mmHgを目標にしていますし、血糖値も高めでコントロールしていますが、もとが高すぎる(660mg/dl)ので、朝の血糖値を300mg/dlを目標にするような自己決定をしています。それより高い日はちゃんと薬を飲むということです。 ■医者の言いなりではなく、「妥協点」を見つける もちろん、タバコを吸っているほうがストレスの解消になるし、今さらやめたくないというのも自己決定してかまわないと私は考えています。以前勤務していた浴風会病院に併設した老人ホームでの追跡調査では、ホームに入る年齢までタバコを吸っていた人は、喫煙者でも非喫煙者と比べて生存曲線に差がないというデータもあります。 検査数値の正常化のため、本当の人生の最大の楽しみの一つである食生活とか飲酒とかをやめてしまっていいのかは、本当の人生をどう生きるかのために考えるべきことですし、医者の言うことを参考にして自己決定するのはともかくとして、医者の言いなりになる必要がないというのが私の信念です。 ただ、医者の言うことと自分の希望の妥協点を見出だすという考え方はあっていいと思います。私が名医と尊敬する鎌田實先生は、菅原文太さんの最後の主治医でしたが、膀胱がんの手術を嫌がる菅原さんの意思は尊重しながら、放射線治療なら受けるということで妥協点を見出したそうです。血圧の高い患者さんについても、薬が嫌だという場合、生活指導なら受けるというのならそこで手を打ったそうですし、酒をやめるのが嫌と言う患者さんに薬ならいいというのならそこで治療方針を決めたそうです。これが患者と治療者の「共同決定」というものです。 配偶者と今後の生き方の方針が違う場合、別れるという選択肢もありますが、配偶者と自分で共同決定するという選択もあるのです。 ---------- 和田 秀樹(わだ・ひでき) 精神科医 1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」 ----------
精神科医 和田 秀樹