大ヒット車を連発する独創的な発想の原点を探りに行く|スズキ歴史館の歩き方
現在、アルト、ハスラー、ジムニー、スペーシアギアと個性的なクルマを造り、そのすべてを大ヒットさせている自動車メーカー「スズキ」。その独創的な発想の原点を探るべく、スズキの歴史のすべてが詰まった博物館である「スズキ歴史館」を訪ねた。 【画像21枚】カーショーにて出展されるエンドレスのレストア車がついに出揃った! 1909年に創業、20年に織機メーカーとして設立されたスズキのモノ作りの精神と製品を紹介するため、2009年に同社本社正門前に開設された企業博物館。地上3階建ての施設は2、3階が展示フロアとなっており、2階はクルマ造りを開発から組み立て、そして海外を含めた販売先までを紹介する前半と、遠州地方の偉人や祭りなどの文化、その他産業全般を紹介する後半で構成される。一方、3階は製品の展示フロアとして、織機や二輪、四輪などが時代順に展示されている。二輪ではマニア垂ぜんの「GSX-1100S カタナ・ファイナルエディション」などを含めた85台、四輪車では欧州車に影響を受けた上級セダンである「フロンテ800」といった極めて貴重な展示車を含めた46台(いずれも取材時)が展示される。他社の施設がクルマの展示を中心に運営されているのに対し、あくまでも同社の成り立ちや地域への貢献を展示・紹介するという点で博物館よりも「歴史館」という名称がふさわしい。 【スズキ歴史館の歩き方】 2020年3月15日に創立100周年を迎えたスズキ。1909年に木工見習いを終えた鈴木道雄が「鈴木式織機製作所」を開設。その後、足踏み式から動力織機を生産するに至り、20年に「鈴木式織機株式会社」を法人登記し、正式な企業としてスタートした。 第二次世界大戦後、52年にはエンジン付き自転車「パワーフリー号」で二輪車製造に踏み出し、55年には「スズライト」の発売で四輪車事業を開始する。その後、オイルショックなどの逆風を受けつつも、日本のモータリゼーションのぼっ興に乗り、急成長をとげたのは皆さんもご存じのとおりだ。 今回紹介する「スズキ歴史館」は、同社の創業以降の事業内容のすべてを凝縮してふかんするべく、2009年に開設された企業博物館。静岡県浜松市にあるスズキ本社前に建設された同館は、各階の展示フロアに特徴的なテーマを設定している。膨大な資料を収めるすべてを紹介することは難しいが、いくつかの車種をピックアップして紹介していこう。 まず、2階フロアはスズキの「モノ作り」全般を網羅。クルマ単体だけでなく、かなりの広範囲な展示に驚かされる。展示前半はクルマ造りの流れで、企画、設計、デザインといった「開発ゾーン」とロボット工作機械などによる「生産ゾーン」が置かれ、実際の車両を使った展示が行われる。 一方、後半は浜松を中心とした地域産業や文化を紹介するユニークな「遠州コーナー」を設置。「消費者の立場にたって価値ある製品を作ろう」という社是に沿うように、単にクルマ造りの展示にとどまるのではなく、地域の人々の足跡を紹介する役割を担った内容となっている。 L40キャリイバンをはじめ、希少な車両がところ狭しと展示されている 初代キャリイにあたる1961年式スズライトキャリイFB。独創的なフレーム、サスペンションから低床ラダーフレームに前後ともにリーフスプリングという他メーカーの商用トラックにあわせた構造として、故障や破損という当時のトラックに多かったトラブルに対応。価格も抑えられていたことから大ヒットにつながり、スズキの軽商用車の基礎を作ったともいえるクルマ。その後、キャリイと名を変え、現在までラインアップされ続けている。 3回はいよいよ展示フロア。同社の出発点である織機から、大人気車まで! 3階はいよいよ製品の展示フロア。同社の出発点となった織機に始まり、二輪の出発点となったパワーフリー号や四輪の出発点であるスズライトを紹介している。もちろん、この階でもスズキらしさが表現されており、例えば「スズライト キャリイ」では実際の荷物運びの様子が再現されたディスプレーとなっており、「フロンテ360」では忠実に再現された当時の一般的民家の横に展示するなど、歴史的遺産というより、あくまでも庶民の生活に沿った見せ方に徹しているのである。 さて、本誌的視点では、フロア前半に並ぶ80年代以前の旧車にスポットを当てて解説しているが、ここ以外にも工夫に満ちた展示が見られる。 たとえば初代アルトでは、スズキを代表する画期的商品として、発売された79年当時の音楽や家電などの懐かしい生活文化品とともに特別コーナーが設けられている。さらに、物語化された開発ストーリーを映像で流すなど、かなり力の入った展示だ。 アルトとともに同社を代表するジムニーは、70年発売で現存数の少ない希少な初代LJ10ジムニーから新規格版であるSJ10が展示されており、デザインや仕様の細かな違いをじっくり見ることができる。 さらに、93年発売の初代「ワゴンR」は、軽として初めて「RJCニュー・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した記念として、賞状や受賞コメントなどとともに賑やかな展示がされている。これもまたスズキらしい庶民的な感覚であろう。 こうしたユニークな展示を行う同館には小中学生の社会科見学を始め、地域産業の研修場所として社会人の見学も多いという。「小さなクルマで、大きな未来を。」というスズキ車の、地に足の着いた個性はどのようは背景から生まれるのか? ぜひ一度足を運んでみてはいかがだろうか。 初出:ノスタルジックヒーロー vol.203 2021年2月号 (記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)
Nosweb 編集部
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