初のW杯は「出場時間わずか4分」も…ラグビー日本代表・李承信が語る「僕が夢舞台から学んだこと」
日本代表のスタンドオフの李承信は、トライを決めるとボールを頭上に高く投げ飛ばし、雄叫びをあげて喜びを爆発させた。それは多くの期待を背負って挑んだラグビーW杯での悔しさを晴らすかのようでもあった。 【画像】ド迫力…! 華麗なステップで相手を翻弄する李承信「圧巻の美技」…! ラグビー・リーグワンの2023-24シーズンが幕を開けた。コベルコ神戸スティーラーズに所属する李承信(22)は、開幕戦となった三重ホンダヒート戦に、本来のポジションである10番のスタンドオフではなく、12番のセンターで出場。1本のトライに2本のペナルティーゴールを決め、勝利に大きく貢献した。また2戦目となった静岡ブルーレヴズ戦でもセンターとして出場。この試合でも1トライに加え、後半26分には逆転に繋がるパスを成功させるなど2試合連続のフル出場でチームを勝利に導いた。どちらの試合でも、持ち味の鋭いランと正確なパスでゲームの流れを作り、得点にからむ動きは、昨年の10番のポジションでは見られなかったプレーだった。 今季から神戸の指揮官となったデイブ・レニーヘッドコーチは、李承信のインサイドセンターでの起用とスタンドオフの可能性についてこう語っていた。 「李承信のパフォーマンスに関しては素晴らしいと思います。インサイドセンターで出ている理由にもなりますが、今季から加入したブリン・ガットランドとともに10番をできる選手が2人いるのはチームにとって素晴らしいこと。状況判断やスキルで2人とも素晴らしいものを持っている。今後に関しては、チームの中の競争もあります。10番を担うブリンも本当に素晴らしいパフォーマンスをしてくれましたが、今後は承信が10番で出る可能性もゼロではないです。競争の中でどう動いていくかというところだと思います」 新指揮官も李承信のパフォーマンスには満足しているようで、これから長く続くシーズンにおいて、“司令塔”としての起用も十分にあるとその答えは明確だった。 神戸で4年目のシーズンとなる李承信だが、彼にとって、今季は“心機一転”という言葉が当てはまるかもしれない。W杯フランス大会では司令塔の10番としての出場を期待されていたが、1試合の出場にとどまり、ピッチに立ったのはサモア戦の後半36分から4分間だけ。ほかの3試合はメンバー外で、個人的には悔しさばかりが残る大会となった。日本代表も1次リーグで敗退し、帰国後は「悔しさしか残らなかった大会。メンバー外も多くて、初めて味わう挫折があった」と振り返っている。 だからこそ、今季は重要なシーズンだ。自分が求められた役割をきっちりと試合の中で果たせるのかどうか。プレーの幅が広がり、ラグビーに対する考え方にも変化が現れているのは、次の言葉からも見え隠れする。 「正直、昨季はW杯を見据えて10番をしたいというこだわりは強かったです。でも今はチームが勝つために自分ができる役割や、貢献できるところを重視しています。フランスW杯ではゲームタイムもなく、出ること自体がすごく幸せに思っているので、今はそこへの(10番への)こだわりは特にないですね」 これは決して“強がっている”わけではなく、競争の中で成長するために必要なことが何なのかを開幕前までにじっくりと考え抜いて出した答えだと思う。日本代表としてたった4分とはいえ、W杯の舞台に“立つこと”ができた。それと同時に、まだこれからたくさんやるべきことがあるということにも気づかされた。 「W杯では、自分はまだ出られるレベルじゃないというのが、あの時のプレータイムだったと思うんです。次に向けていいエネルギーというか、悔しさを糧にこれからどれだけ自分が頑張れるのかです。(W杯では)試合に向けての準備、メンタルの準備のプロセスにおいては、成長や学びを得られました。今は試合に向けて例えば1週間のなかでどれだけいい準備ができるのか、自分の取り組み方にフォーカスしています。これを積み重ねていくだけです。まだ22歳。ラグビーキャリアは続いていくので、日々成長できるようにしていきたい」 ちなみに開幕戦の対戦相手の三重には兄・承爀が所属している。初の“兄弟対決”ということもあって、2人は母校の神戸朝鮮初中級学校の生徒たちを招待。後輩たちの声援を直に感じた。承信が語る。 「学校自体も(学生数の減少などで)難しい状況ではあるのですが、こういう小さな思い出が一つの刺激になり、生徒たちの未来にすごく影響してくると思います。今日はその一歩。自分がそういう人になれたらという思いで今日の試合に招待しました」 李承信にとって様々な思いが詰まった今シーズン。4年後のW杯につながる第一歩となったに違いない。 取材・文:金明昱(キム・ミョンウ)
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