『君が心をくれたから』“案内人”斎藤工&松本若菜の変化 人間時代に五感を失った可能性?
乾杯の音頭をとるためにグラスを持つこと、握手をすること、好きな人のお父さんにお酌すること、抱きしめられること。こんな小さなことから愛情を感じられる大切な行動まで、触覚を失ったら全部わからなくなってしまう。失うものが事前に分かるとは、こうも辛いことなのかと、もう胸がキリキリ痛んでしまう。 【写真】『君が心をくれたから』永野芽郁インタビューカット 「あと34時間。触覚を失うまで残り1日半です」 『君が心をくれたから』(フジテレビ系)に登場する“案内人”はいつだって容赦がない。 太陽(山田裕貴)が事故に遭い、雨(永野芽郁)がその身を案じていたとき、突如現れた日下(斎藤工)と千秋(松本若菜)。2人は、あの世からの案内人と名乗り、瀕死の状態の太陽を助ける”奇跡”を起こす代わりに「あなたの心を奪わせてください」と持ちかけた。それに雨が同意して、太陽が事故なんてなかったかのように元気になり、雨が3カ月かけて五感を失う“過酷な奇跡”が始まったのである。 明らかに人間ではなさそうな日下と千秋にこんな表現をするのもちょっとおかしいが、最初の頃の2人は「血も涙もない」という言葉がぴったりなくらい冷たく感じられた。しかし次第に2人にも“人間時代”があったことが分かってくる。雨が孤独になりすぎないような選択肢を選ぶように、さらりと助言をするようになったのだ。 千秋のアドバイスは具体的だ。日下と千秋の姿、そして次に失う感覚とそれまでの時間が表示されている時計は太陽にも見えているし、彼には“過酷な奇跡”についてを正直に全て話してよいというルールがある。太陽には細かいことを伝えないでおこうとする雨を、千秋は「私は正直に話すべきだと思う。1人で乗り越えられるほど五感を失うことは簡単じゃない」と諭した。それに千秋は雨だけではなく、太陽にも興味があるようだ。第2話で太陽からマカロンをそっと差し出され、「あれは、“あーん”だったのかな……?」「いや、ないない!」と恋する乙女の顔をしている雨の姿を千秋はからかいながら楽しそうに見ていた。「太陽の前には出てこない」という約束だったのだが、「どうしても彼を見たくて」と、その時の様子を見ていたようだ。雨と太陽のことを話す千秋は、冷徹な“案内人”ではなく、恋バナを楽しむ1人の女性だった。 一方で、日下の言うことは「あなたは今日の決断をいつか後悔するでしょう」というようにいつも少し断定的で、「今の決断が間違っている」ことを教えてくれる。第5話で、自分が乗っているバスを太陽が走って追いかけて来ていることに気づいても雨は無視しようとした。いずれ太陽に迷惑をかける自分は、彼から離れたほうがいいと考えていたのだ。その姿を見た日下は、「イフタフヤーシムシム」と呟き、「素直になれる特別な呪文です」と言った上で、雨に後悔するにしても“幸せな後悔”を選択するように促したのだ。その結果、雨は太陽と一緒にこれからを歩む決断をすることができた。 “案内人”2人の雨への接し方は異なるが、どうやら五感を失うと分かっている雨の心の動きも、周りの反応も、そしてこれからどうしたらいいかも知り尽くしているようだ。それは“案内人”として同じような何人もの人に会って来た経験ゆえかもしれないが、もうひとつ、考えられることがある。2人が“人間時代”に経験したのかもしれないのだ。この他にもいくつか“ヒント”があり、SNSでは「千秋は亡くなった太陽の母なのでは?」「日下は雨の父なのでは?」というような考察がいくつか見られている。 触覚を失い、ついに太陽の元に日下と千秋を呼んで本当のことを話した雨。真実を知り、雨の予想通り、自分を責め、「雨が苦しむのをただ見ていることしかできない」と太陽は泣いた。けれども、今の雨をよく見てほしい。日下と千秋のアドバイスもあり、積極的に“幸せな後悔”を選ぶようになった雨は、これからも何かを失っていくことを悲しんではいても、それに苦しんでなどいない。かつては「雨は必要だよ」と伝え続けた太陽が嘆き悲しんでいる。今度は雨が「太陽が必要だよ」と伝える番なのかもしれない。
久保田ひかる