京都で斜め上行く結婚「前撮り」スポット 「ここにして本当に良かった」利用数が倍々ゲーム
京都府庁旧本館(京都市上京区)と京都市京セラ美術館(左京区)が、新郎新婦がタキシードやウエディングドレス姿で写真撮影を行う「フォトウエディング」のスポットとして人気を集めている。ともに現役の公共施設だが、明治から昭和初期に建てられた洋風の近代建築で、レトロで重厚感のある雰囲気がカップルたちの心をつかんでいるようだ。 4月18日午前、府職員や来庁者が行き交う平日の府庁旧本館で、ともに看護師の男性(27)と女性(27)の晴れ姿を写真スタジオのカメラマンが次々に写真に収めていた。赤じゅうたんが敷かれた正庁や西洋の邸館をほうふつとさせるルネサンス様式の建物内外で約1時間。撮った枚数は100枚を超えた。 2人は沖縄県浦添市在住。結婚式はせず、2人だけの思い出づくりにと新婚旅行を兼ねてフォトウエディングに訪れた。「歴史的な建物で撮りたいけど、洋風の建物は沖縄にはない」と県外を探し、インターネットで旧本館を見つけた。女性は「正庁は雰囲気があって、階段の窓から入る光が柔らかい。ここにして本当に良かった」と満足そうに話した。 1904(明治37)年築の旧本館は創建時の姿をとどめる。現在も万博・地域交流課などの執務室が入り、現役の官公庁として国内最古の建物だ。2004年に重要文化財に指定された。府は利活用のため10年度から撮影場所として有料で提供を始めた。当初の利用は数十件だったが、結婚写真を中心に徐々に利用が増え、16年度に100件、19年度には200件を超えた。新型コロナウイルス禍で一時減少したものの、23年度は200件とコロナ禍前の水準に戻った。今では1日で数組の予約が入る日もある。市京セラ美術館も利用を開始した21年度は67件だったが、22年度には127件と倍増。23年度はさらに増える見込みだ。 もともと京都市内には東山区の祇園や白川に架かる巽橋、鴨川、毘沙門堂(山科区)、哲学の道(左京区)など多くの定番スポットがあるが、なぜ今、府庁旧本館と市京セラ美術館がカップルたちを引きつけるのか。背景をたどると、意外にも新型コロナウイルスの影響があった。 ■フォトウエディング人気の理由は コロナ禍、インスタ映え 後押し 「全国的にレトロな雰囲気の建物が人気」。そう語るのは、全国で写真スタジオを展開する「レック」(神戸市)事業本部PR課の担当者。5、6年前から、赤れんが造りで知られる重要文化財・東京駅が、カップルの間で急速に人気を集めるようになったという。 しかし、20年からのコロナ禍で海外に行けなくなったことで、「海外のような風景で撮れるスポットで撮影したいという願望が若者たちの間で強くなった」という。見栄えを重視する「インスタ映え」の流行とも重なり、関西ではレトロさに荘厳さも兼ね備えた大阪市中央公会堂や、洋館が建ち並ぶ神戸旧居留地にも新郎新婦がこぞって現れるようになった。 4月中旬の朝、静寂に包まれた京都市京セラ美術館(左京区)で、カップルが結婚式前に記念撮影をする「前撮り」があった。8月に結婚式を予定する男性医師(32)=奈良県香芝市=は「初めてこの美術館に来た。インターネットで写真を見て、美術館の雰囲気がすてきで、ここで撮りたいと決めた。とても幸せな経験になった」と喜ぶ。 1933年築の同館は洋風の鉄骨鉄筋コンクリート建物に、和風の屋根をかける「帝冠様式」で、現存する公立美術館で最も古い建築物とされる。2020年5月のリニューアルオープン後、新たな美術館の活用方法として、撮影スポットの提供を始めた。前撮りで利用できるのは休館日や開館時間の前後で、衣装代や撮影データ提供の代金などを含めて価格は12万8千円から。他のスポットでの撮影を兼ねるプランもある。 同館から撮影を請け負う「ENISHI PHOTO WEDDING(エニシフォトウエディング)」(中京区)の下中大介社長によると、美術館での撮影という貴重な体験ができるのも人気の秘訣という。モダンな旧正面玄関の大階段や、東山連峰を望む屋上のテラス、日本庭園など「どのカップルの要望にも応えられるスポットが詰まっている場所は国内でも珍しい」と語る。 集客の背景にあるのは施設の魅力だけではない。結婚式の代わりに街中やスタジオで写真撮影する「フォトウエディング」の利用自体が増えていることもある。フォトウエディングのクチコミサイトを運営する「ウエディングパーク」(東京都)が22年度に結婚した約3800組を対象に行った調査では、フォトウエディングや結婚式の前撮りを行ったのは74・8%に上った。 同社広報担当によると、フォトウエディングは、もともとコロナ禍で結婚式ができなくなったことを契機に始まったというが、「最近は結婚式では表現できない世界観を表現できるとあって定着しつつある」と傾向を語る。調査ではフォトウエディングにかかった平均費用は約27万円で、式と比べて経済的な理由で選ぶ人も多いようだ。 一方、大きな額ではないが、府、市にとっても貴重な収入源となっている。府には利用料として23年度に338万円、市には22年度に330万円が入った。市京セラ美術館は「若い世代を中心に、芸術作品に触れてもらうきっかけとしての効果も大きい。『ここで写真を撮った』という思い出と一緒に、美術館に訪れてくれる人が増えてほしい」と期待を込める。