「やり抜く」ことの意味
昨年末に、フルマラソンを完走しました。準備を含めて苦しい体験でしたが、やり切ることで手にした達成感は、何にも代えがたいものです。 今回はこの体験を振り返りながら、やり抜くために必要なものや、やり抜くことの意味について考えたいと思います。
「やり抜く力」を高める準備
目標が高ければ高いほど、その達成には、諦めずに努力し続ける「やり抜く力」が欠かせません。「やり抜く力」と聞くと、日本でもベストセラーになった『GRIT(やり抜く力)』が脳裏に浮かぶ人も多いのではないでしょうか(※)。『GRIT』の著者であるアンジェラ・ダックワース氏は、様々な研究結果から「みごとに結果を出した人たちの特徴は情熱と粘り強さをあわせ持っていることだった」とまとめています。 そうは言っても「情熱を抱き、粘り強さを持ち続ける」のは容易なことではありません。そのためのヒントも『GRIT』の中に見つかります。 「人は自分の興味に合った仕事をしているほうが、仕事に対する満足度が高い」 「人は自分のやっている仕事を面白いと感じているときのほうが、業績が高くなる」 「やり抜く」ためには、そもそも「どうなりたいのか、何をやりたいのか」が明確になっているのが大切だということです。 しかし残念ながら「やりたいこと」は、そう簡単に見つかるものではありません。世の中では盛んに「やりたいことを明確にしよう」と言われますが、実は、目標ややりたいことがはっきりしている人は幸せな人ともいえるのではないでしょうか。
全てはつながっている
エグゼクティブコーチングのクライアントのA氏とは、3年前にA氏が社長に就任した時からの付き合いです。先日のセッションで、彼が言いました。 「稲川さん、覚えていますか。社長に就任したばかりの時に、やってみたいことを30個書き出したんです。正直、あの時はやりたいことを30個も見つけるのに苦労しました。でも、今リストを読み返すと、不思議なことに書いたことはほとんど実現できているんです。やりたいことを考え、それを言葉にすること自体に意味がありましたし、自信にもつながった気がします」 「やりたいことを30個書き出す」というのは、彼のコーチングを担当することになったときに、最初にしたリクエストです。「制限を一切かけずに、とにかく自分がやってみたいことを書き出してほしい」、そう伝えました。 書き出された30個には、仕事でやりたいことだけではなく「やることを減らす」「成功体験をリセットする」など、A氏が自分自身に向き合うものも含まれていました。 社長として実現したいことが明確になっていることは重要ですが、同時に、個人として実現したいことも大切です。私たちは、仕事をしているときもそうでないときも一人の人間です。個人としてやりたいことが、仕事上の目標を達成するためのエンジンになることもあります。すべてはつながっているのです。 私自身の体験を振り返っても、フルマラソン完走という目標を掲げたことが、仕事の成果にもつながりました。マラソンを走ると決めて努力を重ねることは、自信にもつながりましたし、勇気やエネルギーの源泉となり、精力的に仕事に取り組むことができました。