【番記者の視点】浦和・石原広教「構想外」「Cチーム」にも腐らず初先発…胸に抱く「酒井宏樹超え」
◆明治安田J1リーグ▽第7節 浦和3―0鳥栖(7日・埼玉スタジアム、笠原寛貴主審。2万8576人) 【浦和担当・星野浩司】すでに足はつっていた。それでも、浦和DF石原広教(25)は右サイドを爆走した。 3―0の後半アディショナルタイム。右ウィングの大久保智明へロングパスが送られると、20メートルほど後方にいた背番号4は全速力で追走し、追い越した。「その前にクロスが上がってきて足がつって、逆にスイッチが入った。『行かなきゃ!』って、変なアドレナリンが出ちゃいました」。90分以上も上下動を繰り返し、疲労がピークの最終盤。結果的に自身へパスは来なかったが、素早いプレスバックで相手カウンターを防ぎ、完封勝利をもぎ取った。 湘南から移籍後初スタメン。前節・FC東京戦で膝を負傷した主将DF酒井宏樹に代わり、チャンスが巡ってきた。右サイドバック(SB)で先発し、開始9分にはFWチアゴサンタナとのワンツーで相手2人を置き去りにして、決定的な縦パス。前半27分には果敢な飛び出しからゴール前で倒され、PKの判定はなかったものの相手の急所を突いた。 公式戦で今季初のフル出場にもブランクを感じさせず、「自分なりの良さを見せられた」と笑顔がはじけた。走れて、つなげて、球際も強い。そしてフィニッシュに絡める。酒井ほどのフィジカルの強さはないが、右SBで持ち味が光った。 GK西川周作「非常に頑張れる選手。攻撃でも基礎技術が高いので、安心感がすごくある」 MF伊藤敦樹「攻撃が終わった後にすぐ戻ったり、対人も強い」 FW前田直輝「あれだけファイトできるし、僕らは助けられた」 公式戦でスタートから初めて組んだチームメートからの信頼も厚い。 苦境にも腐らなかった。昨オフ、浦和からオファーを受け「迷いはなかった。酒井宏樹選手からポジションを奪って試合に出ることが、自分が上にいくための近道」。覚悟を決めて移籍したが、やはり壁は高かった。ヘグモ監督が主力組とサブ組を明確に分けて練習を行う中、1~2月の沖縄キャンプから主力組には加われず。2組による紅白戦にも入れない時もあり、序列は低かった。 湘南では21年に主将を務めるなど、昨季まで4年間にわたりチームの中心に君臨。自身の立ち位置は激変した。「練習生みたいになっていた。“Cチーム”だった。本当に『構想外なのかな』と思ったりもした」 ただ、紅白戦のサブ組で見せる石原のプレーは際だっていた。パスを出しては動き続けて絶妙なスペースで受けてビルドアップを円滑化し、1対1のバトルも強い。「酒井選手から盗むところは多い。練習でずっと動きを見てる」。対戦相手としてダイナミックなプレーを見せる酒井から学び、吸収した。 ベンチ外だった先月17日の湘南戦後に石原と交わした言葉を思い出す。「だいぶ状態は良くなってきたので、そろそろ試合に絡んでいきますよ。見ていてください」。まさに有言実行だった。「想像よりかなり早い段階で試合に出た」。今回は酒井の負傷で先発の機会が巡ってきたが、復帰した時に指揮官が起用を迷うほどの存在感を見せた。 DF佐藤瑶太、MF安居海渡、そして石原。当初はサブ組だったメンバーが呼び込んだ完封勝利だった。J1のピッチに立てず、ふてくされそうになりそうな若手選手もいる中で「やり続ければチャンスが来るのは分かっていた。逆に『日々やっていなくて急にチャンスが来た時に何ができるの?』というのもある。姿勢や言葉でも常に見せてきたつもり」と石原。そして、ともに苦境を味わってきた仲間に対し、こうも言った。 「また一緒に試合に出たいし、僕もそこに戻るつもりはない。1つ良いキッカケを僕が作れたのかな」
報知新聞社