「本当は、どうして手が赤いの?」川口に住むクルド人女子高生がとっさに「嘘」をついたワケ
2022年5月に公開された映画『マイスモールランド』。高校生の女の子の視点からクルド人難民申請者の生活を描き、第72回ベルリン国際映画祭でアムネスティ国際映画賞・特別表彰を受けた作品だ。 【写真】「本当は、どうして手が赤いの?」川口に住むクルド人女子高生がとっさに「嘘 主人公のサーリャは、埼玉県の川口に住む高校生。5歳の時に故郷を追われる形で両親とともに来日し、難民認定が得られないまま日本で育った。サーリャはバイト先で出会った聡太と親しくなるが、ある日突然在留資格を失い、自由に会うこともできなくなる……。 本作をもとにした同タイトルの小説を、監督・川和田恵真さん自身が書き下ろした。2024年5月15日には本書の文庫版が刊行される。発売に合わせ、ライターの羽佐田瑶子さんがレビューを寄せた。
『マイスモールランド』
「知らなければなにを言ってもいいの? 善意なら人の心を土足で踏みつけていいの?」──見た目が外国人というだけで、無意識に差別的な言葉をかけられた在日クルド人であるサーリャの叫びが胸に迫り、しばらく頭から離れなかった。自分の原風景が思い出される一冊を挙げるとしたら、私にとってのそれは『マイスモールランド』だ。突然在留資格を失ったことで日常が一変する姿が、かつて川崎駅で見た人々と重なった。状況は違うけれど、存在を否定して“ない”ものにしてしまう残酷な制度に対して、違う国の人の話だと腫れ物にさわるように関わらないことを選ぶことも、同様の罪深さがあるのではないか。サーリャの周囲に居る人々の様々な関わり方を眺めながら、私自身の過去を反芻した。
主人公はクルド人の高校生
本書『マイスモールランド』の主人公サーリャは、埼玉県の川口に住む17歳のクルド人。幼い頃から日本で育ち、学校の先生になることを夢見ていたが、突然家族が難民申請で不認定になってしまう。在留資格を失うと居住区から出られず、働くことも許されない。ましてや、大学に進学することは夢のまた夢。家族は日本で安心して生活できる日を望み裁判を起こすが、ある日、父が入管の施設に収容されてしまう。 サーリャは、親に将来の夢も打ち明けられず、親友には嘘の出生地を教え、自分自身の本音をひた隠しながら生きている。孤独に戦う彼女に寄り添ってくれるのが、バイト先の同僚・聡太だ。