「朝鮮通信使」通じた日韓交流に長年携わる姜南周さん 初の短編小説集の日本語翻訳版刊行
70代半ばでデビューした韓国の小説家が今月、自身初の短編小説集の翻訳版「草墳(そうふん)」を日本で出版した。著者は、朝鮮王朝が日本に派遣した外交使節「朝鮮通信使」を通じた日韓交流に長年携わる姜南周(カンナムジュ)さん(84)=釜山市。縁のある日本での出版を強く願い、福岡県内の翻訳家と出版社が応えた。 【写真】韓国・釜山市のご当地グルメテジクッパ 姜さんは民俗学や韓国文学を研究し、釜慶大総長などを歴任。日韓で共同申請した朝鮮通信使の記録が、2017年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」に登録された際は、韓国側の学術委員長として申請資料を選定した。現在は長崎県対馬市の名誉国際諮問大使も務める。 小説集には13年の新人賞受賞作を含む8編を収録。表題作は古くから伝わる死者の弔いがテーマで、大学で教えていた1970年代に学生と韓国の離島を訪ね歩いた民俗文化調査が基になった。日本にも通じる高齢化や孤独死などの社会問題を盛り込んだ作品もある。 姜さんは朝鮮通信使の関連行事で知り合った森脇錦穂(くむす)さん=北九州市若松区=に翻訳を依頼。森脇さんが出版社探しにも奔走し、福岡市・天神の出版社、花乱(からん)社が「客観的で淡々とした文章が人への愛を感じさせる」と引き受け、日本での書籍化が実現した。 「収録作品の多くは老人がテーマで、内面に悲しみを抱える生き方を描いた」と姜さん。人間関係が希薄な現代社会を憂えて「寄り添って生きることが人間の真の姿。人間愛を忘れないでほしい」と作品に込めた思いを語った。森脇さんも「高齢化が進む韓国社会の現在がうまく切り取られている。日本でも共感できる内容だ」と話した。 「草墳」は1980円。購入、問い合わせは花乱社=092(781)7550。 (釜山・平山成美)
西日本新聞