「弱いつながり」が革新を引き起こす
■ブリッジはいつ生まれるか SWT理論を理解する上で欠かせない概念が、「ブリッジ」(bridge)だ。ブリッジは、我々の広いソーシャルネットワーク上に伝播の効率性という大きなメリットをもたらすカギとなる。そして実は、ブリッジは弱いつながりでしか成立しない。わかりやすく解説するので、読み進めていただきたい。 一般に「2つの点をつなぐ唯一のルート」がある時、それをブリッジと呼ぶ。図表1をご覧いただきたい。図表1-aでAとBは、Cを介在してのみつながっており、AとBは直接つながっていない。すなわちAとBをつなぐルートはA-C-Bだけであり、したがってこのルートはAとBをつなぐブリッジといえる。 図表1-bはどうだろうか。ここではbと同じく、AとBをC経由でつなぐルート(A-C-B)があるが、同時にAとBも直接つながっている。すなわちAとBの間をつなぐルートが2つあり、したがって図表1-bに「ブリッジは存在しない」ことになる。 ソーシャルネットワーク上で、あるつながりがブリッジとなりうる条件は何だろうか。グラノヴェッターによると、それは「つながりが弱い時に限る」のだ。 図表1-aを再度見ていただきたい。先ほどはつながりの強さ・弱さを考慮しなかったが、今度はAとCが強いつながり(例えば親友関係)にあり、CとBも強いつながりにあるとしよう。この場合、「AとBもやがてつながってしまう確率が高い」というのが、グラノヴェッターの主張だ。その理由は、主に3つある。 理由1 交流の頻度:人と人が強いつながりにあれば、両者が接触する頻度は多くなる。例えばAとCは強いつながりにあるのでともにいる時間が80%、同様に強いつながりにあるCとBもともにいる時間が80%あるとする。すると、AとCがともにいながらAとBもともにいる確率は80%×80%=64%と、かなり高くなる。64%の確率でAとBがともにいれば、両者は結局つながってしまう。 理由2 心理的効果:Cと親友関係にあるAは、同じくCと親友関係にあるBに対して、親近感を持ちやすい(psychological constraintという)。結果、AとBが互いの存在を認識すれば、両者は親しみやすさを持ってつながる可能性が高い。 理由3 類似性:人は本質的に「自分と似た人とつながりやすい」傾向がある(ホモフィリーという)。AとBが親友(強いつながり)であれば、両者は似たことに関心がある可能性が高い。親友同士のCとBも同様だ。したがって、AとB同士も同じことに関心がある可能性が高く、結果、両者はつながりやすくなる。(なお、ホモフィリーは第31章で詳しく解説している。) グラノヴェッターの1973年論文は、3つの理由のどれが特に重要かは議論してはいない。ポイントは、AとC、BとCがそれぞれ強いつながりにあると、上記のメカニズムのいずれか(あるいはすべて)を通じて、従来のA-C-Bルートに加え、A-Bの直接ルートができる可能性が非常に高い、ということだ。図表1で言えば、aが必然的にbになってしまい、完成された三角形ができるのだ。強いつながりの関係では、ブリッジが存在しなくなるのである。 一方の弱いつながりでは、この状況が起こりにくい。再びaを見ていただきたい。ここでAとC、BとCがそれぞれちょっとした知り合い(弱いつながり)にあるとしよう。AとCはただの知り合いなので、交流する割合は20%程度だとする。BとCも同様だ。したがってAとCがともにいながらBとCもともにいる確率、すなわちAとBが知り合ってつながる確率は20%×20%=4%と、極めて低くなる。 理由(2)と理由(3)についても、同様のことがいえる。AとCがただの知り合いでCとBもただの知り合いなら、両者の親近感は湧きにくいし、それぞれの関心も異なるだろう。したがって、AとBがつながる可能性は低い。結果、一辺が欠けたままの不完全な三角形が残り、A-C-BがAとBをつなぐ唯一のルートであるブリッジとなる。 このように、3人以上がいるソーシャルネットワーク上で、ブリッジは人と人の弱いつながりから構成される。もちろん、弱いつながりでもA、B、Cの三者がすべてつながって三角形が完成することはありうる。しかし、ありえないのは「強いつながり上にブリッジが存在する」ことだ。グラノヴェッターも1973年論文で、“no strong tie is a bridge”(強いつながりは、ブリッジになりえない)と述べている。結果、弱いつながりのすべてがブリッジとは限らないが、「ブリッジはすべて弱いつながりになる」のだ。 【動画で見る入山章栄の『世界標準の経営理論』】 「弱いつながりの強さ」理論 ストラクチャル・ホール理論 エンベデッドネス理論 ※1 Kilduff, M. & Brass, D. J. 2010.“Organizational Social Network Research: Core Ideas and Key Debates,” Academy of Management Annals, Vol.4, pp.317-357. ※2 Granovetter, M. 1973. “The Strength of Weak Ties,” American Journal of Sociology, Vol.78, pp. 1360-1380.
入山 章栄