欧州を震撼させる「中国発通販サイト」 ドイツではすでに約130万人利用も、ECサイトは“関税のがれ”にすぎないのか?
150ユーロ以下の非関税ルールの撤廃も視野に
過少申告も分割もやり放題の現状では、EU各国や地元企業が関税を回避した不当廉売が公正な競争を妨げていると主張するのは無理もない。 ドイツでは、けん制目的として大ホールに輸入小包を集め、大量に学生アルバイトを投入して定期的に全数チェックをすべきだと主張する意見もあるくらいだ。 なおEUの規制当局は、輸入小包の過少申告や分割問題を受け、2028年までに150ユーロ以下の非関税ルール撤廃を検討し決定を下すとしている。 また、EUでは関税だけでなく 「輸入売上税」 の問題もある。EUに商品を輸入する場合、関税のほか輸入売上税(150ユーロ以下の商品にも適用)を支払わなければならない。海外の事業者の場合、EU域内のどこかの国に登録して輸入売上税を支払うこととなる。 例えば、TemuやShein(中国発のファッション通販サイト)はアイルランドに登録しており、アイルランドに支払われた輸入売上税が各国に配分されている。ただ、この配分される金額が実態にあっていないとドイツは批判している。これは、輸入小包データのプラットホームの未整備に起因しており、EUならではの問題といえなくもない。
ECサイトの特性と課税ルールのミスマッチ
ひと昔前は、個人が海外のショップで購入して商品を取り寄せる方法は「個人輸入」とも呼ばれ、数は多くはなかった。 しかしながら、国を超えたECサイト通販が日常化した今日では、個人で購入した輸入小包が増える一方だ。輸入業者が大量に輸入して関税を支払い、国内で販売することを前提とした関税の仕組みでは、 「毎日送り続けられる大量の小包」 には対応不可といっていい。そういう意味では、150ユーロ以下非関税ルールを撤廃して、おしなべて関税を徴収するのもありかもしれない。とはいえ、記載された金額ベースでの課税額とならざるを得ず、過少申告はなくなることはないだろう。 もちろん、関税や輸入売上税の脱税を防ぐ取り組みも行われている。ドイツでは、法律を改正しECサイト運営者が税務署に協力することを義務付けた。さらには、国内に拠点のない海外の事業所を対象としたベルリン国際税務署を昨年末に設立した。 大手のECサイトだけでなく、プラットホームを利用して販売する小売業者もベルリン国際税務署に登録しなければならない。これにより、登録した事業者数が合計115000以上(うち110000以上がアジア圏の事業者)となったという。ただ、数が数だけに事務処理だけでも膨大な作業量となるのはいうまでもない。 ECサイトの普及により、小包の数が爆発的に膨れあがり 「配送能力の逼迫」 を引き起こしているが、国際的には税関や課税処理能力が限界を迎えているといえよう。今後は、ECサイトの特性にあわせた新たな国際ルールが生まれるかもしれない。
本條光(物流ライター)