「『REBEL MOON』は新たな『七人の侍』!」来日したザック・スナイダー監督やペ・ドゥナらキャストが撮影を振り返る
『300 スリーハンドレッド』(07)、『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダー・カット』(21)などで知られる鬼才ザック・スナイダーが生み出したSFスペクタクル『REBEL MOON』。2部構成となるこの大作の第1部『~パート1:炎の子』の配信が、Netflixで開始された。舞台はマザーワールドと呼ばれる帝国に支配された銀河。農民たちが平和に暮らす辺境の衛星ヴェルトにも、その圧政が迫ろうとしていた。過去を捨て、この星で静かに暮らしていた女性コラは村の人々を守ろうと、ともに戦ってくれる戦士を探し求めて星々を訪ね歩く…。そして集まった7人の英雄が、銀河の自由を勝ち取るべく壮絶な戦いに身を投じる。ザック・スナイダーのもとには、コラ役のソフィア・ブテラほか、ペ・ドゥナ、チャーリー・ハナム、ジャイモン・フンスー、アンソニー・ホプキンス(声の出演)ら豪華キャストが集結した。 【写真を見る】「鬼滅の刃」のフィギュア集めにハマっているとも語ったペ・ドゥナ 日本のカルチャーに造詣の深いスナイダー監督がインスピレーションを得たのは、黒澤明の名作『七人の侍』(54)。それを「スター・ウォーズ」シリーズにも似た壮大な世界観の中に落とし込み、ダイナミックな物語を描いていく。銀河の圧倒的な巨大権力に立ち向かった、勇敢な戦士たちはどんな戦いを見せるのか? ヴェルトで自然とともに平和に暮らしていた村人たちの運命は? 大注目のこの作品の配信に先駆けて来日したスナイダー監督、ペ・ドゥナ、ソフィア・ブテラ、エド・スクラインが、本作の魅力や見どころについて語ってくれた。 ■「『REBEL MOON』の世界観をイチから作り上げるのは楽しい挑戦だった」 ――『七人の侍』から発想を得たとのことですが、同作への愛を語ってください。 「とても影響を受けています。勝ち目のない戦いに挑み、勝利を手に入れるキャラクターたちの物語が好きなんです。振り返ると、僕はこれまで、仲間を集めて戦いに挑むキャラクターの映画ばかり撮ってきました。この先も新たな『七人の侍』を撮り続けると思います(笑)」 ――『ジャスティス・リーグ~』などのDC作品でユニバースを築いてこられましたが、今回『REBEL MOON』の世界観を作り上げていかがだったでしょうか? 「10年間DCに関わりましたが、DCユニバースはコミック上で緻密に構成され、作り上げられた世界であり、キャラクターにやらせてはいけないこと、というようなルールが厳然と存在していました。そこから外れないように組み立てていくのが面白かった。逆に『REBEL MOON』は僕がイチから作り上げていったもので、それはそれで難しい点もあるけれど、楽しい挑戦でもありました」 ――「スター・ウォーズ」のように星から星へと舞台を変えていく点も面白いですが、それぞれの星のビジュアルを作るうえで心掛けたことは? 「神話的な星もあれば人間社会のような星もあり、それぞれに必要なビジュアルを、まず考えました。色彩の点では、温かい色合いの星から、淡色の星へと変わっていく流れを作り上げています。どんどん冷え込んでいくような、そんな流れを設計したんです。それぞれの星の画は、まず僕が実際に描き、それをスタッフで検討しながら、最終的に皆が納得するかたちに持っていきました」 ――ドラマも見応えがありますが、そこにどんなテーマを込めたのですか? 「この映画のテーマのひとつは、自然界と人間のつながりです。悪役のノーブル提督は、我々に協力すれば農耕をロボットに任せることができるようになると語ります。でも農民たちは、手仕事をすることで大地とつながっていて、命を与えてくれる自然に感謝を捧げている。そういう意味では、機械を重用する悪役の側は自然界と離れてしまっているんです。そんな対比を善と悪の対立という構図にはめ込んでいます」 次に注目の俳優陣に話を聞いてみよう。『クラウド アトラス』(12)などのハリウッド作品や是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』(22)などに出演し、国際的に活躍する韓国の人気俳優ペ・ドゥナ。彼女が扮するのは、ライトセーバーのような光剣を駆使する二刀流の使い手で、ヴェルトの救済に協力することになる戦士ネメシス。寡黙でクールなキャラクターだが、パート2ではその悲しい過去も明かされるとのことだ。 ■「村のセットでは麦を実際に植え、育てて、撮影時には収穫もしているんですよ」 ――ザック・スナイダー監督からは、ネメシスという役を演じるうえで、どんなリクエストがありましたか? 「ザックとは撮影前にZoomミーティングでよく話しましたが、ネメシスについては、“こういう背景を持つ、こういうキャラクターなんです”と教えてくれただけでした。撮影の時は、ほぼすべて私にネメシスというキャラクターは預けられていました。演じている時は自分の中から直感的に出てくる表現を重視しました。ザックもそれを望んでいたし、実際に彼は“想像を超える演技だった”と褒めてくれましたよ」 ――光る剣を使ったアクションで大変だったことは? 「まず、ネメシスというキャラクターは義手を付けていますが、それは自分で自分の腕を切断して付けたものです。その行為は彼女の復讐心と直結していて、その義手でなければ、あの光剣を操ることができない、という設定になっています。演じるうえでは、これまで武術をはじめ、様々な映画で多くのトレーニングを積んできたので、肉体的にはさほどキツくはなかったのですが、体を低く構える動きが多く、脚には負担がかかりましたね。また、剣の光は背中に装着した装置で発しているので、転がるアクションも大変でした」 ――作品の見どころを挙げるとすれば、どんな部分になるでしょう? 「たくさんあります。CGIで作られたキャラクターや、スナイダー監督らしいキレのある描写、クライマックスでのファイトを演じた俳優たちの演技と、挙げればキリがありません。私が個人的に注目してほしいと思うのは、スケールの大きなセットで撮影されている点です。ロサンゼルスに作られたものやオープンセットもありました。砂漠の真ん中に村を作って、そこで撮影もしました。村のセットでは麦を実際に植え、育てて、撮影時には収穫もしているんですよ。こういうリアルセットの背景も含めて、すべてが魅力的だと思います」 ■「コラが守ろうとしているものは、現代の多くの女性が抱えているものでもある」(ブテラ) 最後は主人公であるコラ役のソフィア・ブテラと、悪役のノーブル提督を演じたエド・スクライン。『キングスマン』(15)の殺し屋役でブレイクしたブテラは、凄腕の戦士だが、どこか陰のあるコラに扮し、こちらも激しいアクションに挑んだ。一方、『トランスポーター イグニション』(15)で知られるスクラインは、マザーワールドから派遣された提督で、残忍極まりない冷血漢ノーブルを怪演している。ペ・ドゥナが見どころとして挙げていたクライマックスのファイトは、彼らが演じたものだ。 ――ブテラさんは多くのアクションを演じられていますが、もっとも気に入っているアクションを教えてください。 ブテラ「やっぱり、エドと演じた最後のファイトシーンですね。あの場面はコラの戦いの理由が深いレベルで明らかになるから。彼女が守ろうとしているものは、現代の多くの女性が抱えているものでもあると、私は考えています。この場面はロサンゼルスで夜に撮影しましたが、とても限られた時間の中でスタッフが一丸となって作り上げたシーンであり、その緊張感は画面からも感じとってもらえるでしょう」 ――スクラインさんはここまで恐ろしく憎々しい役に挑むのは大変だったのでは? スクライン「今まで演じてきた役の中でも、もっとも遠いところにいる人物を演じるという点では、やりがいがありました。ノーブルのように恐ろしいキャラクターを演じた経験はないので、俳優としての自分を高めるための教育の場であると感じましたね。それがどこまで成功したかはわからないですが、ロンドンのプレミアで、この映画を見た親友が“今までの仕事の中で最高の演技だった”と言ってくれたのは嬉しかった。俳優の仕事が好きだし、今後も続けていくためには、自分からより遠いところにいる人物を演じることも必要だと思っているんです」 ■「自分からより遠いところにいる人物を演じることも必要」(スクライン) ――コラとノーブルの、それぞれの戦う理由をどう受け止めましたか? ブテラ「コラの戦いは基本的に“守る”ためのものです。自分の暮らしている村を守るための戦いであることは明白ですが、自分を守り、弱者を守るための戦いでもある。また、コラには過去の出来事に対する罪悪感があり、つぐないの意識も強い。正しい振る舞いをしたいという思いが、戦いの動機にもなっていますが、それはパート2で描かれるので、ぜひ観てください」 スクライン「スナイダー監督から受けた説明では、ノーブルの父はマザーワールドの元老院議員で、ノーブルをダメな息子と思っているとのことでした。辺境の惑星で反乱者を取り締まっている程度で、大きな仕事はさせてもらえないんです。そういう状況だから、ノーブルはのし上がりたい。父に見直してもらいたい。そんななかで、コラやネメシスといった、重要な反逆者たちを捕らえるという大きなチャンスがめぐってきた。彼は、これを成功させて、元老院にのし上がりたいという野心を抱いているんです」 ――お互いの俳優としての魅力を、どう見ますか? ブテラ「エドは紳士的で優しく、気遣いができる人。これは人としてもアーティストとしても重要なことだと思います。役者として親切で寛容であることは、人としてそうでなければ発揮できない資質です。エドはそれを持っているんです」 スクライン「俳優に必要なのは、神秘性や魅力、ニュアンスの違いの表現など、様々なものがありますが、それらを含めて深みがないといけない。観客は役者を見て、演じているキャラクターについて深く考えるわけですから、奥行きや幅が必要になるんです。そういう意味では、コラを演じたソフィアは、まさに堂々たる役者でした。観客としてコラを信じられるのは、彼女が役に入り込み、全力で真摯に取り組んだからですね」 取材・文/相馬学