円安・原油高の物価シミュレーション:輸入インフレ・ショックからの経済の正常化を遅らせる要因に
この前提の下、2026年度のコアCPIは+2.6%と3年連続で2%を超えるが、2025年度には+1.5%、2026年度には+0.9%と次第に低下していき、日本銀行の2%の物価目標は持続的には達成されない見通しとなっている(図表)。 しかし、「原油高・円安持続ケース(WTIが87ドル/バレル、1ドル152円)」と、足もとの原油価格、ドル円の水準が続く場合には、2024年度のコアCPIは+2.8%となる。 さらに原油高、円安が大きく進む「原油高・円安進行ケース(WTIが100ドル/バレル、1ドル160円)」のもとでは、2024年度のコアCPIは+3.1%と2023年度見通しの+2.8%を超えて3%台に乗せる。また、2025年度は+2.0%と2%台を維持するなど、先行きの物価見通しは大きく変わってくる。
原油高・円安は「輸入インフレ・ショック」からの日本経済の正常化を妨げる
こうした物価環境の下では、日本銀行の追加利上げが前倒しで実施される可能性が高まるだろう。他方で、物価高の長期化は、個人消費の低迷を長期化させ、スタグフレーション的な経済状況を助長してしまう。 日本経済は、2022年以来の輸入物価の急騰によって、実質賃金の大幅低下、労働分配率の大幅低下という「輸入インフレ・ショック」に見舞われ、個人の生活が圧迫されてきた。足もとでの物価上昇率の低下と賃金上昇率の上振れは、日本経済がようやく「輸入インフレ・ショック」から正常化に向けて動き出したことを示す明るい動きだ。 しかし、この先、原油高、円安が進めば、こうした正常化は遅れることになり、国民の厳しい生活環境は長期化しかねない。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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