7月~9月前半の日経平均株価の振り返り、「20円の円高進展」がもたらす株安【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】
7月の米国失業率の悪化から「景気後退」を囃した市場関係者
8月2日に発表された7月の米国雇用統計では、非農業部門・就業者数が前月差11万4,000人増加と市場予想平均といわれていた17万5,000人増加を大幅に下回りました。 一方、失業率は4.3%と4.1%と言われていた市場予想平均を大幅に上回りました。市場関係者は失業率の悪化からサーム・ルールの景気後退シグナルが点灯し、米国の雇用市場が急激に冷え込みつつあることを印象づける数字と騒ぎました。 サーム・ルールとは、元FRBのエコノミストであるクローディア・サーム氏によって考案されたものです。直近3ヵ月移動平均が過去12ヵ月間の3ヵ月平均の最低値と比較して0.50%以上上回れば、景気後退に陥る可能性が高いとされているものです。 景気後退シグナルが点灯とされた結果、8月2日のNYダウは▲610.71ドルと大幅に下落しました。9月のFOMCでの大幅利下げ観測が出て、週明け月曜日8月5日のドル円レートは瞬間的には1ドル=141円台を記録、8月5日の日経平均株価は▲4,451円28銭という史上最大の暴落を記録しました。 9月発表の米国の経済指標に深刻な景気後退に陥る可能性は小さい!? その後発表された、米国の経済指標は深刻な景気後退に陥る可能性は小さいと感じられるものが多いと思われます。8月の雇用統計では、失業率は4.2%と前月から0.1ポイント改善しました。 8月の消費者物価指数では、全体は前月比+0.2%、前年同月比+2.5%と、7月の+2.9%からガソリン価格の低下などで鈍化傾向が続いたものの、変動の激しい食料・エネルギーを除いたコア指数は前月比+0.3%、前年同月比+3.2%と7月と同じ伸び率になりました。 7~9月期の実質GDPに関する事前予測値をみると、アトランタ連銀のGDPナウは直近の9月9日発表分で前期比年率+2.5%、NY連銀スタッフ・ナウキャストは直近の9月13日発表分で同+2.57%です。なお、NY連銀スタッフ・ナウキャストの10~12月期の見通しは同+2.17%です。 こうした状況をみると、9月17~18日のFOMCで、FRBは利下げ開始に踏み切りますが、まず0.25%の利下げを実行し、0.5%の大幅な利下げを行う可能性は後退したと考えるのが普通かと思われます。 それにもかかわらず、WSJ紙の、「FRBの利下げジレンマ『大きく始めるか小さく始めるか』来週の利下げはほぼ確実も、その幅が0.25%か0.5%かは際どい判断」という記事などを材料に9月13日も市場は変動したようです。 相場を動かしたい市場参加者は当然多いようです。もちろん、万が一9月17日に公表される8月小売売上高が非常に弱い場合などは、0.5%の可能性は排除できないので、注視が必要でしょう。 ※なお、本記事は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。 宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト) 三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。
宅森 昭吉