「幻の橋」水没へ タウシュベツ川橋梁 壁崩落のアーチ耐えられるか
「幻の橋」と呼ばれる北海道上士幌町の旧国鉄士幌線「タウシュベツ川橋梁(きょうりょう)」が湖に沈む時期がやってきた。11月1日には、全体の9割が水没している。湖の水位低下に伴い、来春に再び湖面から現れるが、地元は「今度こそ11連アーチが途切れるのでは」と例年以上に危機感を強めている。今年は、ある不安材料があるからだ。 【写真】湖側から見た崩落前のタウシュベツ川橋梁 9月26日午後、地元のNPO法人「ひがし大雪自然ガイドセンター」のツアーに参加した。 ツアーのワゴン車は、許可制のダートの林道の先、糠平湖近くの士幌線路跡にある小さな駐車スペースに停車した。ワゴン車から降り、首都圏や関西から来た9人の見学客とともに、糠平湖近くの木のトンネルとなった線路跡をしばし歩く。突然視界が開け、橋脚を半分程度水に浸した橋梁が現れた。 1937(昭和12)年に完成した全長130メートルのコンクリート製、11連のアーチ橋。近くで見ると、湖畔の砂利と一体化したような茶色がかったグレーの構造物は、劣化により表面がゴツゴツしていて、コンクリート橋というより古代ローマの水道橋遺跡という形容がぴったりだ。 ここ数年劣化が進み、今年6月にも中央部6番目のアーチで比較的大きな壁面崩落があった。 NPOによると、南から6番目の橋脚上部の湖面側の壁がV字状に大きく崩れているのが見つかった。反対側の山側の壁も21年春に崩落しているため、中の砂利がほとんどこぼれ落ち、外観は大きく変わってしまった。 アーチの対をなす南から5番目の橋脚上部の壁の両側もすでに崩れ落ちているため、この2カ所を結ぶアーチは、薄いコンクリートがかろうじてつながっているだけになっている。 案内してくれたガイドの上村潤也さん(38)は「来春にはこの部分のアーチはつながっていないかもしれない」と話す。ここが、冬を無事越せるか、大きな不安材料になっているという。 橋は例年、ダム湖の水位上昇にともない、秋にはほぼ水没する。ダムの水が減り始める1月ごろに凍結した湖面に再び姿を現すが、その際、何トンもある氷の塊が橋の上にのしかかることになる。そのサイクルを約70年繰り返してきた。
朝日新聞社