30代長男の死…嫁は「私たちを頼らないでください」と言い残し、孫を連れて海外移住。食堂で働き詰めの高齢母が、涙をこらえて遺した〈まさかの遺言書〉
泣き疲れた母、立ち上がって冷静な行動をとる
「母親は弟が自宅マンションを買うとき、かなりの資金援助をしているのです。それに、弟が亡くなったことで団信の生命保険が下りて、ローンも帳消しになっています」 弟の嫁は、海外にわたるタイミングでマンションも売却していたことから、まとまった現金も得られたと思われます。 「孫と会えなくなることを、母はひどく悲しんでいました」 しかし、次第に母親も気持ちが落ち着き、冷静にいろいろなことを考えるようになったようです。 「母は、今後はすべて私に任せるしかないと思ったのでしょう。町内会の人に紹介してもらった司法書士の先生のところに出向き、財産はすべて私に相続させるという内容の公正証書遺言を作成しました」 母親が作成した遺言書には、付言事項として「亡き長男には自宅マンション購入時に十分な援助をしているため、これを理解のうえ遺留分を請求しないように」と書き添えられていました。 「弟の家族はニュージーランドに腰を据えるようで、日本に戻るつもりはないようです」
遺産はマンションの3室と預貯金…相続税の基礎控除以内
母親の財産は自宅1部屋と賃貸物件の2部屋で、いずれも同じマンション内です。時価は1部屋1,500万円程度ですが、相続評価は1部屋800万円程で、預金等を含めても、3,000万円程度の財産だと確認できました。よって基礎控除内となり、相続税はかからず、申告も不要です。 その後、筆者の事務所が紹介した司法書士の手によって相続登記も無事に進めることができました。
海外在住者との遺産分割差協議は、恐ろしく大変
もし母親が公正証書遺言を残していなければ、田中さんはニュージーランド在住の甥姪と遺産分割協議書を作成しなければなりません。田中さんが全財産を相続することに合意が得られた場合も、全員で遺産分割協議書を作ることが必要です。 外国に暮らす甥姪と手続きを行うのは非常に煩瑣かつ労力のかかる作業であり、田中さんはもちろん、甥姪にもかなりの負担をかけることになります。 もし亡き母親の意向に同意が得られず、甥姪も財産を相続することになれば、甥姪の権利はそれぞれ4分の1ずつであることから、マンションを売却して費用をねん出するか、マンションを相続させるしかありません。 いずれにしても、田中さんひとりで相続手続きができなくなるのです。