兵庫県知事騒動から考える 「権力者」とは何か 追及かわす常とう手段 映画「はりぼて」監督が明かす
富山市議会の政務活動費不正受給問題を追った映画「はりぼて」(2020年)の監督として知られる五百旗頭幸男(いおきべ・ゆきお)さん(46)。これまで自身のドキュメンタリー作品の中で、県知事や“市議会のドン”らと対峙(たいじ)し、さまざまな社会問題を浮き彫りにしてきた。兵庫県知事のパワハラ疑惑が報じられる中、五百旗頭さんに「権力者」とは何かをたずねた。 【画像】権力者の特徴を語る五百旗頭さん 五百旗頭さんは「はりぼて」制作時はチューリップテレビ(富山県)に所属し、現在は石川テレビでディレクターを務める。「『保守王国』といわれる地域の中で、権力者に立ち向かうのは怖くないですか」。そうたずねると「立ち向かう意識はない」ときっぱり。「メディアが権力をチェックするというのは当たり前のこと。国内のメディアはあまりにも行政権力や経済と一体化してしまっており、機能していないことのほうが怖い」と強調する。 記者から不正を追及され、しらを切る市議会議員、取材に対して「私がコメントすべき立場にない」と言い続ける市長…。「はりぼて」に出てくる権力者たちは、あらゆる手段で記者の追及をかわそうとする。五百旗頭さんは、権力者が記者とのやりとりで使う「常とう手段」が三つあると明かす。それは「全否定」「論点ずらし」「逆質問」だ。 「根拠がないのに、自分にとって不都合なことは全否定。論点をずらしてはぐらかし、長いことしゃべって、こちらが何を質問していたか分からなくする。逆質問でたたみかけ、記者がひるんだらさらに追い詰め、『(記者が)変な質問をしている』という空気をつくるというのが特徴」と五百旗頭さん。権力者が別の人間を使って、記者ではなく、他部署の人間に圧力をかけてくるということもあったという。 ■麻薬のように 五百旗頭さんの出身地でもある兵庫県では、斎藤元彦知事のパワハラや公益通報を巡る疑惑が報じられ、知事らを文書で告発した元県西播磨県民局長の男性(60)が死亡した。五百旗頭さんは「告発者の命が失われるなんてあってはならないこと。権力者の取り巻きが顔色ばかり見て進言できないという問題は、日本全国どこでも起こっている。兵庫県だけでの特殊な例としてとらえず、国の問題として、国民が向き合わないといけない」と指摘する。 「知事は予算、人事など裁量権が大きい。職員が絶対服従すると考え、麻薬のように『権力』のとりこになっていったのではないか」と推測。告発者が不利益な扱いを受けないように守ることを定めた公益通報制度が機能しなかったことにも触れ、「早急に見直し、ちゃんと成り立たせないといけない」と語気を強める。 ■組織は腐敗する こういったことが起こるのは公権力の世界だけではない。保守的な企業・組織であればあるほど、「独裁者」がいたり、上に間違いを指摘しづらかったりすることがあるだろう。そこに左右されないためにはどうすればよいか―。 「この組織に固執していないというスタンスを明確にし、自分自身の力を地道につけること」。五百旗頭さんの場合、所属する会社内だけでなく、社外にも自分の作品を支持してくれるファンを獲得することで、表現者としての自身を守ることにつながったという。 組織が腐敗しないために必要なものをたずねると「トップに対してもの言える人間がいないといけない。そういった人間を排除し、周りにイエスマンしかいない組織は腐敗する」と述べた。