村上春樹「素敵な俳優で、僕は個人的にこの人が大好きです」メグ・ライアンとも共演したお気に入りの俳優とは?
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。6月30日(日)の放送は「村上RADIO~歌う映画スターたち~」をオンエア。村上春樹さんが持っている秘蔵の音源の中から「えっ!? こんな人も歌っているの?」と少し驚いてしてしまうような楽曲を放送しました。 この記事では、中盤2曲について語ったパートを紹介します。
◆Kevin Spacey「Mack the Knife」
ケヴィン・スペイシー、味のある優れた俳優ですよね。ちょっとひねった役がうまくて、「セブン」の連続殺人犯役なんかは、ほんとに不気味でしたね。彼は複数の男性に対するセクハラ事件に関与していまして、裁判では無罪になったんですが、現在のところ映画界からはほとんど追放状態になっているみたいです。どうしようかなとちょっと迷ったんですが、まあ音楽に罪はないということで、かけることにしました。 なかなか多芸な人で、ボビー・ダーリンの伝記映画『Beyond the Sea(ビヨンド the シー ~夢見るように歌えば~)』では監督・主演・制作・脚本の四役を務め、おまけに歌も全部自分で歌っちゃうという驚くべき活躍ぶりを見せてくれました。歌がまたうまいんです。なにしろボビー・ダーリンにそっくりです。 今日はその映画から「マック・ザ・ナイフ」を聴いてください。これ、むずかしい歌なんだけど、楽々と歌いこなしてしまいます。映画のハイライトシーンになっています。歌うのはケヴィン・スペイシーです。
◆Kevin Kline 「La Mer」
ケヴィン・スペイシーのあとはケヴィン・クライン。ケヴィン・スペイシーがきりっと切れ味の良い俳優だとすれば、クラインさんの方は飄々(ひょうひょう)としたとぼけた雰囲気を漂わせた人です。こちらも素敵な俳優で、僕は個人的にこの人が大好きです。 中でもこの『フレンチ・キス』という映画はメグ・ライアンとのコンビが実に絶妙で、あちこちで大笑いしてしまいます。映画の中で、ケヴィン・クラインは変なフランス人を演じていまして、フランス語なまりの英語が絶妙なんです。そういう役をやらせるとこの人は本当にうまいですね。 ケヴィン・クラインがフランス語で歌います。「ラ・メール」 映画の最後でクラインさんとメグ・ライアンが結ばれて、おそらくは暗くなった寝室の中でクラインさんがこの「ラ・メール」をクレジットにかぶせて鼻歌風に歌います。シャルル・トレネの作曲したシャンソンの名曲ですよね。でもアメリカ人のメグは「それって、ボビー・ダーリンの歌じゃん」と言い張って、ちょっとした口論になります。そこの部分がほんとうに洒落ていて素敵だった。 (TOKYO FM「村上RADIO~歌う映画スターたち~」2024年6月30日(日)放送より)