「何かあるな」という予感はしていた

「クイン」の名物ママ・りっちゃん(左)と客　(C)フジテレビ

フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00～ ※関東ローカル)で、3日に放送された『新宿二丁目の深夜食堂2 ～名物ママ 54年目の決断～ 前編』。LGBTQの人々が集う東京・新宿二丁目で53年続いてきた深夜食堂「クイン」を営む夫婦と客の人間模様を追った作品で、10日に「後編」が放送される。 【写真】厨房に立つりっちゃんと夫の加地さん その長い歴史の最後を見届けながら取材したのは、田渕慶ディレクター(ライド)。名物夫婦や店の魅力、そして撮影の舞台裏などを聞いた――。 ■まさかの緊急発表にスマホで撮影 午前0時から朝の9時までという営業時間ながらいつも盛況の「クイン」。多くの客の目的は、名物ママ・りっちゃん(78)に会うことだ。恋愛の悩みや人生相談など、ここでしか話せない悩みをぶつければ、優しいアドバイスや、時に厳しい叱咤激励が返ってくる。さらに、夫の加地さん(77)が作る安くて温かな家庭料理が、お腹を満たしてくれるのだ。 だが、体力の衰えを感じ、閉店時間を待たずに店を閉じる日も出るように。夫婦は店舗の賃貸契約が更新を迎える2024年夏で閉店することを決めたが、夏に加地さんが倒れたこともあり、今年9月いっぱいに前倒しすることになった。 今年3月の前回放送後も、クインに通っていた田渕D。24年夏での閉店を公言していたものの、「りっちゃんは“いつまでやるか分かんねぇしな”と、つぶさに言ってたんで、何かあるなとは思っていたんです」と予感があったという。 そんな矢先、常連客の店で朝5時まで飲んでからクインに移動して飲み直しているときに、りっちゃんが突然「お前らに重大発表がある」と切り出し、9月末での閉店を発表。 「カメラも持ってないから、自分のスマホを慌てて取り出して、それで撮った映像なんです」と、リアルタイムで驚きながら急きょ撮影したために違和感のある画角となったが、その瞬間を収めることができた。 この日は朝6時まで飲んでいたため、発表の衝撃は「あんまり覚えてないんです(笑)」とのこと。仕切り直して、翌日から今回の続編に向けた撮影が始まった。 ■学生時代のたまり場だった部室みたいな感じ 前回の放送後、客が増えたことから、「何人かから“忙しくさせたから、クインが終わるのはお前らのせいだ(笑)”と言われました」と冗談が飛び交うほど、多くの常連客と飲み仲間になった田渕D。そのため、「前回に比べて、今回は顔にボカシ処理をするお客さんが少ないんです」という。 中には、閉店を知って涙する客の姿も。それは、クインがただの“行きつけの店”を超える存在であったことを象徴している。 「みんな言うのは、クインで知り合った仲間がいるから来るんだと。クインに行けば誰かがいて、“久しぶり”って言える。りっちゃんに会えるということにプラスして、その要素が大きいですよね。まるで、学生時代のたまり場だった部室みたいな感じなんです」 また、「“おかえり”って言ってくれる場所を家以外に持ってると、ちょっと気持ちが豊かになるだろうなと思います」と、しみじみ感じたそうだ。