内部告発で右往左往…県知事の「おねだり」「パワハラ」疑惑文書拡散で兵庫県政が“異例の大混乱”
一通の告発文が兵庫県政を大きく揺るがしている。 3月中旬、「齋藤元彦兵庫県知事の違法行為等について」と題する文書が兵庫県下の関係各所に送付された。そこには齋藤元彦知事(46)の「違法行為」や「贈答品の受取」、「パワハラ」など7つの項目に関する疑惑が記されていた。 【写真】すごい!齋藤元彦兵庫県知事がラグビージャージ姿で現れて……! 文書は匿名だったが、県は西播磨県民局長だったA氏(60)が書いたと断定し、A氏を解任。齋藤知事は「ありもしないことを並べ、本人も認めている」と記者会見で説明したが、A氏は「事実無根の文書を作成したとは認めていない。事実関係を早急に調査すべきだ」と知事の発言を否定した。 その後、県人事課が主導で内部調査を実施。「文書には根拠がなく、誹謗中傷」として5月7日、A氏を停職3ヵ月の懲戒処分とした。だが、県議団の中から「調査は県の人事当局主導で行われ、公平性、客観性がない」という意見が続出。県議が職員に対して改めてアンケートを行うと、パワハラと思しき知事の行動が7件確認されたという。 5月20日付の読売新聞が「県の内部調査に協力した弁護士は県の利害関係者だった」と報じたことでさらに風向きは変わり、再調査を否定していた齋藤知事は「信頼回復のため第三者委員会を設置する」と方針転換した。 二転三転する知事の言動、県政の対応――。兵庫県政で何が起こっているのか。数々の証言や資料から、その実態を追う。 「告発文の内容は基本的に正しいという見方です」 本誌にこう断言するのは兵庫県の元幹部職員B氏だ。B氏は知事の職員の扱い方、公金の使い方に常々疑問を感じてきたと述べた。A氏と交流が深いB氏は、告発文が出された経緯についてこう説明する。 「これまでの県政と現県政の最も大きな違いは、知事のリーダーシップです。井戸敏三前知事を含む歴代の県政では、最終的な政策決定は知事自らが行っていました。しかし、齋藤知事は『部長以下で決めて、大事なことだけ報告してください』というスタンス。職員は混乱して風通しが悪くなり、上長の顔色を伺う雰囲気になっていった。 そんな状況を見かねたA氏は『県庁生活には満足し、感謝もしている。でも、このままだと残される後輩たちがかわいそうだ』と立ち上がり、告発文を出したのです。決して県政を混乱させるためではない。県政を正しい方向に持っていき、職員が働きやすい本来の環境に戻ってほしい、というのが彼の願いです」 A氏が告発したパワハラ疑惑を職員はどう捉えているのか。現職の県幹部職員C氏は「犯人探しが行われており、職員が戦々恐々としているため身分は隠してください」という条件で、次のように話した。 「知事は感情的なところがあり、何の前触れもなく怒り出すというタイプの方です。例えば芸術楽団などの催し物に呼ばれた際、『公用車の停め位置が遠い。歩く距離が長い』と怒り出したことがあります。現場に控室がないと『なぜ用意してないんだ』と激怒する。 行事はホテルで開催されることが多いため、控室を用意するとなると、税金で部屋を借りねばならないのですが、そんなことはお構いなし。常に髪型のチェックを怠らないので、控室に姿見は必須です。職員はトイレの位置も細かく把握しておく必要がある。職務に必要なことというよりも、知事のご機嫌取り的な側面が強いと感じます」 また、告発文の中では知事の「贈答品のおねだり体質」についても問題提起された。C氏が続ける。 「齋藤知事が就任されてから、民間の力を積極的に借りて民間の資金も活用していこう、という方針になりました。ただ、特定企業とのタイアップは職員の中で問題視する声も小さくない。実際、知事は業界や経済状況の視察という名目で県内を回っていますが、“ただ見ているだけ”ということが多く、視察先で贈答品を受け取ることがメインとなっていると感じてしまう。我々はあの視察を『遠足』と呼んでいます」 県職員や県民の意見を受けて、再調査の申し立てを行ったのが丸尾牧県議(59)だ。丸尾氏は職員にアンケート調査も実施した。その回答には、第三者委員会設置の要望や知事のパワハラ疑惑の数々、贈答品の受け取り疑惑についても、具体的に記されていた。なぜ、再審査の申立てを行ったのか。丸尾県議が明かす。 「知事の発言や県の調査について、最初から違和感があったんです。告発文の内容が事実なのか、事実でないのか、調査をしようとしても行政側は情報をシャットアウトしています。とにかく真実を追及したいというところからスタートしました。 報復とみられる人事を含む県側の過度な反応や、職員の萎縮は今後の県政運営に大変な障害となる恐れがある、という危機感があった。そこでアンケートを実施したところ、7名から具体的な回答があった。『事実を明らかにしてほしい』という強い要望の声をいただいています」 アンケートの回答や、丸尾氏が県に提出した申立書の中で特に目を引くのが、「パワハラにより職員が自殺した」という文字だった。昨年11月に行われた阪神タイガースとオリックス・バファローズの優勝パレードの担当課長だったD氏が自ら命を絶った疑いがあるというのだ。 パレードには公費を投じない方針だったため、5億円をクラウドファンディングと協賛により集め、実現に漕ぎつけている。しかし、県職員によればクラウドファンディング自体では1億円ほどしか集まらず、残金を集めるため協賛企業や各所と調整を行っていたのがD氏だったという。 捜査関係者が打ち明ける。 「今年4月20日、たしかに当該の総務課長さんが遺書を残して亡くなられています。この方は、うつ病も発症していた。ただ、遺書の中ではパワハラに関する直接的な言及はありませんでした」 職員の自殺について委員会でも質問が飛んだが、県は実態を明らかにしていない。前出の県幹部職員C氏が言う。 「昨年の阪神タイガースの優勝パレードの際、実務を行っていたのがD課長でした。非常に人格者で、部下からの信頼も厚い方でした。Dさんがいろいろな課を回り『お金が集まらなくて苦しい状況だ』と話されていたのを見て胸が痛みました。総務課長までやられた方ですから、本庁に残るのが基本ですが、春の人事異動で県の外郭団体に異動となっており、そこにも違和感を覚えました」 兵庫県は知事の一連のパワハラ疑惑や、職員が自ら命を絶った疑惑についてどう捉えているのか。FRIDAYデジタルの取材に県人事課はこう回答した。 「(騒動に対する)第三者委員会の設置につきましては、お答え出来る立場にないので回答を控えさせて頂きます。また職員に対するご質問に関しては、個人情報に伴う事項のためお答え出来ません」 取材後の5月21日、齋藤知事は疑惑を調査する第三者機関を設置すると表明した。県議会では、百条委員会の設置も検討中だという。最大会派である自民党の一部やひょうご県民連合所属議員たちは「6月議会での百条委員会設置を目指していく」と語気を強める。 自民党の伊藤傑県議(58)は「県民の皆様の疑念は日増しに高まっている」と憤る。 「県政をクリアにするため、真実を追及するのは議員の責務だと考えています。知事からパワハラを受けたという職員さんから相談があり、『職員は処分を恐れており、内部調査の際は言えるわけがなかった』と話されていた。つまり、その程度の調査だったというわけです。職員さんを守る意味でも、第三者委員会だけではなく、百条委員会も6月定例会で議決し、即設置を目指していきます」 だが、数々の疑惑を解明するのは容易ではない。前出の丸尾県議が改めて誓う。 「第三者委員会や百条委員会による客観的な調査は当然必要ですが、仕組みができれば実態解明が進むかというと、そうは思わない。百条委員会が開かれても、我々も独自で調査していかないと真相解明はできないでしょう。事実が1つでも明らかになるよう、今後も追及していくつもりです」 1人の職員の勇気ある告発により、知事に疑惑の目が向けられるようになった兵庫県政。今後予定される第三者委員会の中で、その真実は明らかになるのだろうか。県民からも早期解明を求める声が、日増しに高まっている。
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