フレデリック、復活のツアー〈WELL 噛 ONE〉完走 “噛めば噛むほど味がする音楽”に大歓声
フレデリックが、1月21日に〈FREDERHYTHM TOUR 2023-2024 “ WELL 噛 ONE ”〉ファイナル公演を北海道・Zepp Sapporoで開催しました。 昨年夏にフロントマン・三原健司(Vo,G)がポリープ摘出手術を受けてから挑んだ初のツアー。「噛めば噛むほど味がする音楽」「一人ひとりへ」という意味を込めたツアータイトルを冠した昨年からの旅路は、最終地点となった極寒の札幌をどのように彩ったのか。原点を見据えながら新たなページへ進む彼らの姿と共に、ある地点においてフレデリックというバンドが日本の音楽シーンの頂点に立っていると“思わされた”本ライヴのレポートが到着しました。 [ライヴ・レポート] 雪が深々と降る札幌の光景とは180度異なり、開演前からどこからどう見ても超満員に熱気が蠢くフロア。待ち構えるオーディエンスは、緞帳の閉まった会場に鳴り響いた“ペパーミントガム”のアンビエントなアレンジで別世界に誘われた。高橋武(Ds)の深いスネアが息を飲む会場に鳴り幕が開くと、白い衣装に身を包んだ健司(Vo,G)が登場。会場を貫く彼の絶唱が響き渡ると、ビートがスローダウンし轟音が鳴る。歓声が上がると共に、赤頭隆児(G)のカッティングが鳴って飛び込んだのは“熱帯夜”だ。 瞬間点火したフロアを大量のレーザーが切り裂き、会場はたちまちレッドゾーンへ突入。ここから「フレデリズムツアーファイナルはじめます、どうぞ宜しく」と“オワラセナイト”を放って最初のブロックは終了となるのだが、この時点で明白だったのは、彼らが人力で織りなすダンスビートの強度。当然初期の頃に比べるとシンセサイザーなどのバンドサウンド以外もプラスしたライヴ編成にはなっているのだが、兎に角にもバンドそのもののグルーヴが凄まじい。そして、そのグルーヴは高速のダンスミュージック以外でも存分に発揮されることを目撃することになる。 明白なシーンとなったのが、彼らがシーンへ登場するきっかけとなった楽曲“SPAM生活”。三原康司(B)(以下康司)のサイケデリックなベース、〈死んだサカナのような眼をした/サカナのような生き方はしない〉というリフレインフレーズが脳内をグルグルとかき回す、デビュー当時にして既にフレデリックとしての個性が確立している楽曲なのだが、彼らは今のモードで同楽曲を自由に泳ぎ回っていた。特にBメロの展開においてBPM(簡単に言えば楽曲の速度)を可変させながら緩急をつけたアレンジを施し、オーディエンスを異世界へ誘っていたのだが、彼ら自身がその遊び心をステージ上で一番楽しんでいるように見えたし、健司の歌声に康司のコーラスが加わった時の音圧の強みも、初期から持ち合わせていたものだったことを再認識できるステージング。原点ともいえる楽曲で見せた彼らの姿は、高速のダンスビート以外でも会場を飲み込むグルーヴを持つ証明のような時間であり、この日のセットリストを通してみると、最終的に非常に「辻褄」が合うシーンとなっていて、その部分は後述したい。 ピークの連続となるように作られたセットリストもステージ演出も非常に完成度が高く、前述したレーザーの演出はもちろんのこと、ステージ背面に並べられたロゴの設置物を使用しての音ハメしながらの照明演出や映像演出は、五感に対してのアプローチとしての効きが明白だった。“ラベンダ”では、メロウな音像の中に仕込まれた細やかなキメに対して照明演出が楽曲全体のダイナミズムを強めていたし、“オドループ”や“スパークルダンサー”など、いわゆるフレデリックの必殺技としてのダンスロックの際には、会場のテンションを全開に引っ張る存在してステージを彩っていた。 つまり端的に言えば、演奏面でも演出面でも非常に丁寧に作り込まれたツアーだったのだが、この日はファイナルということもあり、そのグルーヴは最高潮に達していた。そして何よりも、健司のヴォーカルのキレが際立つ。ステージ上で「歌が楽しい」「調子がいいんですよ」と彼は何度も口にしていたが、ポリープ切除後、歌うことに対してストレスがない状態であることが起因してか、今まで以上に健司の歌を通して彼らの音楽に「ノレる」のだ。 そもそも、今の日本のロックシーンに、日本語をここまで細かなキメと共にリズミカルに飛ばすバンドは数少ない。しかも、それがバンドセットを通したメンバー自らの演奏と歌声で強固に実現しているという点では、フレデリックというバンドは今ひとつの頂きに立っていると言えるだろう。そう実感できたのは、間違いなく健司の歌声が最高潮のモードとなったことで、バンド全体のグルーヴがバチっとハマっているから。今、彼らのバンドとしてライヴで生み出すダンスミュージックは必ず目撃した方がいい。 ただし上記の点は、いわば彼らの進化の過程として予測可能な範囲。その地点を超えて、今彼らは明らかに新たなモードに立っていると言える・それは、“ペパーミントガム”と終演直後の22日にリリースされた最新曲“PEEK A BOO”に観て取れた。本ツアーの象徴的な楽曲となっていた前者は、一般的なリスナーがフレデリックに抱くイメージとは異なるミドルナンバーだったかもしれない。しかし、昭和歌謡曲のニュアンスやシティポップ的な要素は、フレデリックの初期の頃を垣間見てみれば強く発露していたもので、今絶好調の健司の歌声を最大限に生かした楽曲として、最大の効力を発揮していた。そしてリリースされたばかりの“PEEK A BOO”は、原点から今を辿ったからこそ生まれたであろう、ある種カオティックかつラディカルなものとなっている。この日彼らが“SPAM生活”をBPMを可変させてアレンジしていたように、“PEEK A BOO”でも同じ手法が使われながら、サビに入ればリスナー待望の音ハメ全開のダンスロックが待っている。だからこそ、最初期の楽曲である“SPAM生活”がこのツアーで披露されたことが腑に落ちたし、過去から今を辿るセットリストを披露したことで、フレデリックが持っている多くのモードの融合をみることができたツアー(と最新曲)は、まさに「噛めば噛むほど味がする音楽」を目指したツアー名に違わないものとなっていたと言えるだろう。 6月から全国6都市を回るファンクラブ・ワンマン・ツアー『Home Party Tour 2024』、対バン・ツアー『UMIMOYASU 2024』の開催発表をした彼ら。絶好調のバンドの運気そのままに、間違いなくバンドにとって素晴らしいページが刻まれる確信があるのだが、その理由は本ツアー名に「ONE」と入れた意味――健司が何度もステージから話していた「これからも一対一でやりましょう」という言葉に漲っていただろう。どんな状況となろうとも、オーディエンスに対して真っ直ぐな眼差しを持ち続ける彼らは大丈夫。完全復活を超えたフレデリック、今彼らは強い。 text by 黒澤圭介 phpto by 西槇太一