「焼く直前に串に刺すのがおいしい」80歳店主がこだわる焼き鳥 ふらりと立ち寄りたくなる「赤ちょうちん」営み半世紀
県庁から裾花川沿いに南へ下り、相生橋を渡ってすぐの道沿い。午後5時を過ぎると、赤ちょうちんがともる古びた小さな1軒の建物がある。長野市小柴見の居酒屋「若葉」。紺色ののれんをくぐると、3、4坪の狭い店のカウンター越しに店主の池田周司さん(80)がにこやかに出迎えてくれる。 【写真】赤ちょうちんがともる「若葉」の外観
焼き鳥や唐揚げなど料理は鶏肉が中心だ。焼き鳥は注文を受けてから肉を切る。「焼く直前に串に刺すのがおいしいんだよ」。池田さんが手際良くもも肉とネギを串に刺して焼き始めると、香ばしい匂いが店内に漂った。
カウンター4席と小上がり2席、手書きのメニュー。「お客さんと話しながら料理を出せる。それが楽しい」。そうやって約半世紀、ここで店を続けてきた。
中野市出身の池田さんは20歳のころから東京や長野市、飯山市などの日本料理店や洋食店、中華料理店で働き、和洋中さまざまな料理の腕を磨いた。「おいしくできるとうれしくて。料理は自分の性に合っているんだろうね」と話す。
「空いている場所があるから、焼き鳥屋をやってみないか」と知人に勧められ、開いたのが今の店だ。建物は元々は自転車店だった。店名は父が知人と結成した野球チームの名前にちなんだ。
開店当時、今は車の抜け道になっている店舗南側の通りには、菓子店や鮮魚店、薬局などが並び、人通りも多かった。地元住民だけでなく、県庁で働く県職員や警察官らも頻繁に来店。池田さんは「昔は近くの鮮魚店から仕入れて刺し身も出せたし、いろんなお酒も飲めてスナックみたいな雰囲気にもなったよ」と懐かしむ。
その後、近くの幹線道路沿いなどに量販店やコンビニエンスストアが増え、一帯の小さな商店の多くが閉じた。「残っているのはうちと、この先にある食堂ぐらい」。常連客は年を取り、客の数も減っていった。仕入れができず今はメニューに掲げていても出せない料理もある。
13日夜、30代の女性が1人で店に入ってきた。会社帰りで初めて訪れ「家の帰り道にあって、ずっと気になっていた」という。親子丼を頬張り「おいしい。目の前で作ってくれるとなんか安心します」と笑顔を見せると、池田さんの表情がほころんだ。
今も赤ちょうちんとレトロな店構えに引かれ、ふらりと立ち寄ってくれる客がいるのが張り合いだ。「誰でも気軽に入ってもらって、一杯飲んで話をして、帰りたいときに帰ってもらえばいい」。健康な限り店は毎日開けるつもりだ。(高野雄司)