『Rise of the Ronin』は超カッコよく幕末を描く一作。銃弾を刀で弾くと刀が燃えたり、ワイヤーアクションで敵にダイブしたり、「あり得るかもしれないロマン」とリアリティを両立させながら「時代劇」を再解釈
「時代劇」というジャンルに対して、正直に言えば「古臭さ」を感じる方も少なくないのではないだろうか。無論「時代劇」というジャンルで多くの名作が存在するいっぽう、なんとなく“今っぽさ”や“新鮮さ”は感じづらい。 『Rise of the Ronin』画像・動画ギャラリー しかし、『Rise of the Ronin』は時代劇として「幕末」をかつてなくカッコよく、現代に通ずる美意識で描いている。筆者の持っていた時代劇への印象は、プレイしてすぐに砕け散った。それほどに、本作はクールに歴史を楽しめるエンタメ作品に仕上がっているのだ。 このたび、『Rise of the Ronin』の冒頭をひと足先にプレイする機会をいただいたため、本作がいかに「時代劇」というジャンルながらもクールなアクションRPGになっているのかを紹介していこう。 体験プレイで感じた本作の魅力を追っていくにあたって、史実に基づいたリアル調の要素はもちろんのこと、フィクショナルながらも「本当にあるかも」と思わせる絶妙な脚色にも注目してほしい。 登場人物や物語、アートワーク、アクションなどあらゆる要素に現代風のチューニングが施されることで、本作を「フレッシュな時代劇」として成立させているのだ。 また、本作は『NINJA GAIDEN』や『仁王』シリーズ、『Wo Long: Fallen Dynasty』などを手掛けた「Team NINJA」が手掛けており、『仁王』で“戦国死にゲー”を生み出した同チームが「オープンワールド」の作品として本作を制作した点も気になるところ。 結論から言えば、本作の戦闘はTeam NINJAらしい緊張感のある戦闘に、ガンアクションやワイヤーアクションが加わることで、「硬派」と「スタイリッシュ」を両立させている。 オープンワールドらしい立ち回りや探索の自由度、アクションの奥深さ、そして難易度選択が追加されることで、かなり幅広いユーザーが楽しめるところもポイントだろう。 本記事の末尾では開発を手がけたコーエーテクモゲームス プロデューサー早矢仕洋介氏と、開発プロデューサー兼ディレクターである安田文彦氏への合同インタビューの様子もお届けする。 長い年月をかけて制作された本作のバックグラウンドや、「ただの侍ではないが、壁を走ったりはしない」といった絶妙な塩梅のエンタメ性についてなど、さまざまな面から『Rise of the Ronin』について語っていただけたので、ぜひあわせてチェックしてほしい。 それでは、クール過ぎるうえに、懐の広い「幕末」の正体に迫っていこう。 聞き手/りつこ・豊田恵吾 撮影/増田雄介 ■『仁王』で挫折した人もウェルカム、難易度選択が救う命もある。 『Rise of the Ronin』は黒船が来航し、戦争、疫病、政治不安による大混乱に陥る幕末の日本を舞台に、名もなき‟浪人”の主人公として戦い生き抜いていくオープンワールドのアクションRPGだ。 主人公は主無き浪人であり、歴史上で重要な人物を暗殺するのか、守り抜くかなどの重大な決断を下していき、自分だけの歴史を築いていく。 本作のゲームプレイは、キャラクターの成長によるRPG的要素、60FPSによるシンプルながらも奥深いアクション、密度あるオープンワールドを探索する自由度の高さと隙のない内容。 体力及び回復薬や遠距離武器の弾薬を補充してくれる「旗印」(『ソウル』シリーズにおける篝火、『仁王』における社)を頼りにしながら探索やバトルを行う形式がベースになっている。 舞台は幕末らしく和洋が入り混じったオープンワールド。広さだけではなく高さもしっかりとあり、美しさはもちろん、探索する楽しさがしっかりと味わえる。 Team NINJAのアクションゲームと聞くと、高難度なアクションが苦手な方は速攻でブラウザを閉じてしまうかもしれない……が、すこし待ってほしい。なぜなら本作にはイージー、ノーマル、ハードと3段階の「難易度選択」があるからだ。 まさに筆者も複数の高難度アクションゲームを途中でほっぽり出すド下手クソだが、試遊にてゲームの難度を推しはかる都合上「ノーマル」でプレイすると、基本的なシステムに慣れれば「何十回と同じ敵に挑む」といった場面は訪れなかったし、システムに慣れればハードでも顔を真っ赤にしながら楽しく遊べた。 もちろんノーマルにおいても複数回敗北してしまう場面はあったが、明確に反省点を理解することができる。言うなれば、ノーマルでも「そこそこ死ぬけど涙は出ない」塩梅である。そして同じ敵とイージーで戦えば、戦闘の醍醐味はそのままに、少し余裕を持って楽しめた。 本作にはバトルを重ねて得たポイントでキャラクターを強化する育成要素もあるし、「倒せる強さの敵」との戦いを重ねるなど、プレイのやり方次第で難度を調整することもできる。 なので、「設定や雰囲気は気になるが絶望は求めていない」という方も、安心して『Rise of the Ronin』の世界へ飛び込んでほしい。 ■パリィにあたる「石火」やワイヤーアクションなど、近接武器だけではない、間合いの妙や演出がスパイスに 本作の戦闘システムは、攻撃や回避を行うシビアなタイミングが勝敗を分けるオーソドックスな高難度3Dアクションの形式だ。 武器はモダンな‟銃剣”などを含む8種が用意されており、「天・地・人」の種類(型のようなもの)を持つ、実在した流派を切り替えながら戦うことが可能。 流派はゲームを進めたり、新たな登場人物と「因縁」が生まれることで習得可能。各流派の「天・地・人」は、敵の武器との相性があり、分類によって有利/不利の関係性を持つ。相性が有利であれば、後述するパリィにあたる「石火」で敵を大きくのけぞらせられる。 アクションの要はいわゆる‟パリィ”にあたるアクション「石火」。「石火」は通常攻撃はもちろん、致命傷となりうる赤い殺気を放つ「武技」も無効化できるほか、敵を一時的に「動揺状態」にできる。動揺状態中の敵を攻撃すると、気力上限を大きく減らせるほか、動揺状態の敵はのけぞりやすくなるので、一方的に攻撃できるチャンスとなる。敵の気力をゼロにしてダウン状態にすれば、大ダメージを与える「追いうち」が可能。 つまり、「石火」は強力な防御であり、大ダメージを与えるチャンスをのきっかけにもなっている。本作にはスタミナゲージが存在するなど仕様は異なるが、ニュアンスとしては『SEKIRO』や『Wo Long: Fallen Dynasty』のテンポ感を‟地に足の着いたスピード”にシフトさせた感触だ。 いわゆる‟時代劇”的なアクションと言えば、お互いに刀を構えたまま、暫く静かに見つめ合った末に、何かが爆発したように突発的に刀を交える。そんな静と動の劇的なリズムを持っているイメージがないだろうか(少なくとも筆者はそうだ)。 本作の戦闘は、構えが象徴する相手の流派、相手の攻撃パターンや「石火」を行うタイミングを読み取る「受け身なフェーズ」を経て、一定の間隔で訪れる攻め時に気力を削るべく叩みかけていく形式になっている。 この「攻め時」を冷静に待ち、いざ訪れた攻め時に一撃をカマしていくリズム感は、上述した「時代劇の戦い」のイメージを想起させる。また、時代劇といえば武器についた血を払うシーンが印象的だが、本作では武器に付着した血を払うことで、気力を回復できる。つまり、攻撃後に血を払うことで、より多彩な行動が可能というわけだ。 さらに、主武器は2種類装備できるほか、攻撃中に武器の切り替えが行えるため、流れるように武器を切り替え、スタイリッシュに戦うことができる。 とはいえ、本作の戦闘は「石火」を絡めたシビアな判断をエンドレスに繰り返す戦闘機械野郎向けのハードコア仕様ではない。確かに硬派な緊張感はあるものの、むしろ‟遊び”を積極的に取り入れている。 その‟遊び”のひとつは鍵縄だ。 鍵縄はゲーム開始時からいつでもワンボタンで使用可能である。戦闘においては、地上では敵を転ばせつつ引き寄せ、空中で使えば対象に向かって空中からダイブをすることができる。 加えて、フィールド上にオブジェクトがあれば敵に投げつけることができ、所持しているスキルによってはダイブしながら敵に切りかかることもできる。決して万能ではないが、適切な場面で使えばちょっとしたチャンスをもたらして、本作のバトルに余裕を与えてくれる。 フィールド上にはしばしば「鍵縄」で登れる場所が用意され、敵と戦うマップにおいても高所が配置されている。 これにより鍵縄を活用した立体的なヒット&アウェイやステルスキルといった戦法で、戦闘の楽しみを広げている。高所を取った際には銃や弓といった遠距離武器が優秀で、近接で戦わなくてはならない敵を確実に減らしていく戦略的なゲームプレイが楽しめるだろう。 また、本作には「幕末」を舞台にした設定にちなんでエイムが不要の中距離武器「短銃」が副武器として実装されている。 「短銃」のダメージはほどほどだが、敵が攻撃するタイミングで打ち込むことでスキを作れる。すでに公開されている映像では、相手の強攻撃へ向けて連発してキャンセルし、大きなチャンスを作っている場面が伺えた。スキルを習得すれば、剣劇で追い詰めた後短銃でズバンとトドメをさすことも出来る。 しかるべきタイミングで使用する必要があるが、うまく使えばちょっと「ガン・カタ」みたいなお洒落な攻撃ができる。ゲーム冒頭では触れられなかったが、本作に登場する銃剣にも近しい性質を期待したいところだ。 このように、本作の戦闘は時代劇にマッチした硬派さと共に、ワイヤーアクションや、「ガン・カタ」を思わせるお洒落かつフィクショナルな要素が組み込まれている。そんな綱渡りをするようなバランス感が「クールな幕末剣劇バトル」を実現していると感じた。 ■遊べば「新しい文明」の鼓動を味わえるオープンワールドの横浜。タイムスリップして観光気分 『Rise of the Ronin』の初報映像を見たときに、「幕末なのにグライダーを使えるのか!」と驚いたのを覚えている。 本作では水中を泳げるほか、地上は馬で移動可能。そして、高所から落下する際にはグライダーのようなからくり「アビキル」を使用して飛行することができる。「何もない更地」は殆ど存在しないマップ密度なので、陸・海・空と心地よく探索可能だ。 また、取材に際して実施された合同インタビューで伺ったところ、マップの広さは27平方キロメートルほどで、充分な広さと密度を有している。 本作で登場するマップは横浜・江戸・京都の3つ。ゲーム冒頭は神奈川県の郊外と思しきエリアから幕を開けるのだが、ウェザリングの表現などによりちょっとした村にも趣がある。 マップに関して何より注目したいのは、「幕末の横浜」がちゃんとカッコいいという点だ。 筆者は横浜生まれ横浜育ちで、小学生の頃には開港150周年のイベントが実施されていた。これにより、横浜市歌をアレンジした謎の楽曲およびダンスなどを通して、「開港」という歴史のターニングポイントの存在を半ば強引に体験としてインプットされている。 しかし、現代の横浜に目を向けても「赤レンガ倉庫」といった非常に‟それらしい”建物しか残っていないし、沿岸部にはブルジョワな趣の建築物が並んでいるだけ。日光江戸村みたいな再現施設も存在しない。少なくとも校外学習などで連れていかれたエリアで「横浜を通じて西欧の息吹が流れ込んできた」というドラマを感じることは一切なかった。 ところが『Rise of the Ronin』が描く横浜は、「マジで新しい文明が入ってきている」という、おそらく当時の国民が感じていた劇的な驚きを味わえるロケーションになっている。 そびえ立つ時計塔や、街を行き交うドレスやスーツの人々。それらは日本の建築物の中でモノリスのように異質な存在として存在感を放っている。ゲーム冒頭からドンピシャな横浜中心部が描かれない仕様により、自分の足で進んでいくことでより一層「新たな文明の中心地にやってきた」という驚きを身をもって体感できた。 なお、横浜の中心地以外にも随所で西洋風の馬車が放棄されていたり、ロケーションとして外国人墓地が存在したりと、随所で「西洋の息吹」を景色から感じられる。 また、「西洋」とあまり関係の無い寺社や敵キャラクターの拠点なども存在し、一定のリアリティを維持しつつ、デフォルメをすることでマップ全体にメリハリがある。なので、オープンワールドゲームとして「幕末の日本を浪人として旅する」気分もバッチリと味わえるだろう。 ■主人公は、実はふたり。友達みたいな距離感の偉人たちがストーリーに誘い込む ちなみに、本作の主人公はゲームの冒頭では浪人ではなく、とある出来事をきっかけに浪人となるのだ。ゲーム冒頭でプレイヤーは、忍術や剣術を仕込まれたふたり組の戦士「隠し刀」としてゲームをプレイしていく。 そのため、ゲーム開始時にプレイヤーは‟ふたりの主人公”を制作することとなる。 キャラクリエイトは体格や筋肉量、ほうれい線やおでこの皺などを設定でき、従来の「Team NINJA」の作品よりかなり自由度が増している。なんならマニキュアやペディキュア(爪紅)を施せたり、ヘアカラーにはインナーカラーやメッシュといった現代らしいオシャレなアクセントを施すことも可能だ。 ちなみに、筆者は「こんなヤツいたのか?」というイケオジ浪人を制作したが、案外ゲームの雰囲気が崩れることはなかった。冒頭のキャラクリエイトは「本作は必要に応じて嘘を付くことで、最高にクールな時代劇を描きます」という宣言のようになっている。 キャラクタークリエイトのカスタマイズ機能を使って細部までこだわり、自身が納得できる塩梅の「嘘」をつけるのも本作の魅力だろう。 ひょんなことからプレイヤーは浪人となり、「もうひとりの主人公」を探す旅として物語は動き出す。主人公の個人的な人探しが「倒幕派」と「佐幕派」と絡み合い、物語が展開していくようだ。 注目のポイントとしては、主人公が「倒幕派」と「佐幕派」のどちらに力を貸すのかを選択できる点だ。作中には「坂本龍馬」や「吉田松陰」などさまざまな実在した人物が登場し、主人公は偉人たちと交流しながら歴史を動かす戦いに身を投じていく。 最初に出会う偉人は坂本龍馬で、やたらとセクシーな彼となんだかんだ仲良くなり、みるみるうちにマイメンとなる。 正直、筆者はメジャーでセクシーなビジュアルの登場人物がそろっていることや史実を踏まえて「余裕で倒幕っしょ」と倒幕派ルートを選択した。 しかし、いざゲームをプレイすると、佐幕派で最初に交流する人物は「村山たか」という実在した佐幕派のスパイで、まさに峰不二子みたいな女性キャラクターなのだ。 佐幕派の物語は冒頭では「村山たか」を通じて進行するようで、思想と関係なく彼女の依頼を受けたくなる。結果として「倒幕派」と「佐幕派」、どちらの味方になるのかつい迷ってしまう設計になっているのだ。 また、本作では友好関係のある人物との間に「因縁」というステータスが存在し、基本的にメインキャラクターが登場するクエストをクリアすることで「因縁成立」として関係性が築かれていく。 さらに、「因縁」はプレゼントをあげたりしながら、より深めることも可能だ。日常的な会話なども楽しめるため、幕末志士をはじめとする登場人物との交流や、関係性そのものを味わえる。 歴史上の人物といえば、出来事と結びつけて暗記する記号的な存在になりがちだ。しかし、主人公というプレイヤーの分身を通じてコミュニケーションし、彼らと共に戦い生き抜くことで、強い実在感を持って登場人物を認識できる。 このように、歴史には残されていないが、歴史の真っ只中に存在したかもしれない架空の人物を主人公に設定することで、間近で見つめるかのように歴史上の人物の人柄や思想、魅力を前のめりに表現している。 だが、それぞれの人物の思想は異なり、主人公が全員の思いや欲望を引き受けて生きることは、恐らく不可能だ。 対立する思想の人物たちと出会い、誰を選んで生きていくのか。そんなことを考えながら本作をプレイすれば、かつてなくドラマチックに歴史を体験できそうだ。実際にプレイする際には、ぜひさまざまな人物と交流し、思い入れを持った上で激動の歴史を見届けよう。 ■早矢仕洋介氏、安田文彦氏インタビュー ──『Rise of the Ronin』の「オープンワールド」と「幕末」というコンセプトは、どのように生まれたものなのでしょうか。 早矢仕洋介氏(以下、早矢仕氏): 歴史を扱う作品としてオープンワールドを採用することで、「その時代を直接体験するようなゲームが作れるのではないか」という考えがありました。 また、オープンワールドの作品には「一本道ではない」という魅力があると思います。「幕末」という時代は、異なる思想や思いを抱えた人が生きた時代であり、そんな時代をオープンワールドで描き切ったら間違いなく面白いだろう、と考えたんです。 ですので、必然的に「幕末オープンワールドゲーム」というコンセプトが生まれました。 ──『Rise of the Ronin』は難度設定が可能となっていますが、どのような意図で取り入れたのでしょうか。 早矢仕氏: Team NINJAはこれまで戦闘の魅力を第一に考えてゲームを作っていましたので、高難度の戦闘にチャレンジしていただくことがゲームの柱となる体験でした。 『Rise of the Ronin』でも引き続き、Team NINJAらしい戦闘の手応えをしっかり作っていますが、今回は戦闘以外の魅力にも非常に力を入れています。戦闘以外にも魅力を感じていただける方へも本作をしっかり届けるべく、開発の初期から難易度選択を実装することは決めていました。 安田文彦氏(以下、安田氏): 本作は攻略方法や設定により、歯ごたえのある戦闘を楽しむこともできます。ですので、「死にゲーではない」のですが、状況次第で「死にゲーらしい難度」も味わえるものになっています。 ──ゲームの難度に関しても、戦略といった「遊び方」においても、プレイヤーが思うように選択できる選択肢の多さがあるんですね。 安田氏: そうですね。ひとりでステルス攻略することもできたり、「徒党」システムにより因縁を結んだキャラクターやオンラインのプレイヤーと共に最大3人で協力して戦えたりと、さまざまなプレイスタイルで遊んでいただけると思います。 ──難易度選択において、「ハード」はどのような経緯で用意されたのでしょうか。 安田氏: これまでのTeam NINJAの作品は敵の動きをマスターし、RPG的な要素も駆使したうえで強敵を倒し、その達成感を味わうようなものでした。 そういったこれまでの作品を楽しんでいる方には、より歯ごたえのあるゲームプレイを提供したいため、「ハード」を用意させていただきました。また、「ハード」でプレイすることでより多く経験値を獲得できるほか、ドロップアイテムが少しだけ変わるようになっています。 プレイヤーの腕前や攻略する技術などと相談して、難度を選択していただきたいと考えています。 ──なるほど。ゲーム内でより良い報酬を狙ってチャレンジすることも可能なんですね。 安田氏: ミッション中は報酬の面で難度を上げることはできないのですが、それ以外の場面であれば、自身の力量と相談して難度を変更していただいてもよいかもしれません。 ──本作のアクションは、リアル調でありながらもワイヤーアクションや短銃などによりお洒落で、スタイリッシュな印象を感じました。 安田氏: お洒落って言われたのは初めてです。『ペルソナ』シリーズでもあるまいし……。 一同: (笑)。 安田氏: 本作の主人公は浪人という設定ですが、出自としては‟隠し刀”という忍者と侍のハイブリッドのような存在になっています。その設定に伴って、これまでTeam NINJAが手掛けてきた剣劇アクションに新しい要素を取り入れたいと思いました。 歴史モノの作品であるため、刀アクション自体は地に足を付けつつ、ちょっと超人的で忍者らしいアクションを取り入れることで「ただの侍ではないが、壁を走ったりはしない」というようなラインを目指しています。 安田氏: また、幕末という時代設定を活かし、欧米の銃などを取り入れた点もアクションの変化に影響しているように思います。短銃などは戦国時代には実装できない要素だったため、そういった変化が本作のアクションの印象を生んでいると感じます。 とくにお洒落だと思って作ったわけではないのですが、ぜひ「お洒落」は記事にするときに太字にしていただければ(笑) ──本作はTeam NINJAの作品において、もっとも武器種と武器ごとのアクションが多いと思います。どのように制作されたのでしょうか。 安田氏: これまで作ってきたノウハウを活かしました。ちょうど『仁王』で「3種類の構え」を作りたいとお願いしたスタッフが関わっているのですが、本作で「流派を導入したい」と提案したら、凄い顔をしていましたね(笑)。 武器種の選定に関しては、過去作で登場した武器種を引き継ぎつつ、本作では虚構性が強すぎるものは好ましくないため、作中の時代に存在した武器を選びました。 あとは、作中に登場する人物が実際に使用していた流派も参考にしています。坂本龍馬だったら北辰一刀流、新撰組だったら天然理心流というように、登場人物ごとに流派を設定しました。 作中では「因縁」を結ぶことで主人公が新たな流派を獲得できる仕様になっています。ただ「因縁」を結ぶことでストーリーが進むのではなく、アクションにも変化を起こすため、多数の流派や武器が必要になったということです。 そういう方便で、アニメーションチームを説得しました(笑)。 ──ゲームを実際にプレイすると、それぞれの流派に使いどころがあるように感じました。 安田氏: 時代劇らしく剣豪同士が見合って、構えや流派を見て、戦い方を決定する様子を再現したかったんです。 ですので、流派ごとの相性はあるものの、「この流派/武器じゃないと勝てない」ような状況は絶対にないように調整しました。 ──ちなみにですが、流派ごとの相性は「石火」成功時のよろめきの大きさ以外に影響はあるのでしょうか。 安田氏: 「石火」が一番わかりやすいのですが、ダメージが高まったり、敵の気力の上限を削りやすくなったりという変化があります。 ──本作では街中を歩いている浪人と戦うことができますが、戦うと「手配度」が上がります。この仕様はどのような狙いで実装されたのでしょうか。 安田氏: 「手配度」が上がることで一時的にプレイヤーの行動が制限されるため、ペナルティとして実装しています。 これまでのTeam NINJAのゲームは基本的に動くものすべてが敵だったため、本作で初めて生活の営みをするキャラクターを描きました。ただし、「斬られたら走って消えていく」ような仕様にはリアリティがないため、「手配度」を導入しました。。 プレイヤーの皆さんの「暴れてみたい」という欲求に対しての、作品による反応ですね。 ──町民を辻斬りすることなどはできないため、主人公のヒロイックな側面が重視されていると感じました。 安田氏: 歴史の大きな流れを描いていますので「ならず者」のようなプレイを推奨する仕様にはしていません。ただし、オンライン機能で「腕の立つほかのプレイヤー」とすれ違い、腕の立つ者同士が果たし合える「時代劇」らしい体験は用意しています。 ──本作のフレームレートなどについて教えていただけますか? 安田氏: 本作には3種類のモードが用意されていて、解像度を優先するグラフィックモード、フレームレートを優先するパフォーマンスモード。レイトレーシングに対応したモードが用意されています。 パフォーマンスモードにおいては60フレーム、解像度を優先するグラフィックモードは30フレームになります。プレイする際には、ぜひ好みにあわせてモードを選択していただきたいです。 ──お話を伺っていて、本作は再現性に徹するわけではないものの、各要素においてはリアリティを重視していると感じました。そういった作風はどのような理由で決定したのでしょうか。 早矢仕氏: コーエーテクモがこれまでに歴史に関するエンターテインメントを制作してきた中で、一定の歴史に対する嘘のつき方、歴史に向き合う際の距離感をお客さんは感じていると思うんです。 本作においても、「コーエーテクモならこうやって幕末を描くだろう」という期待にしっかり答えることを意識しました。 わかりやすく言えば我々は織田信長を美少女化するのではなく、「ペリーはカッコよく登場してほしい!」といった思いを率直に描きたいと考えています。 ──あくまでも「歴史そのものが持つ魅力」に基づいて、デフォルメや脚色を行っているんですね。 安田氏: やはり‟地に足の付いた作品”にしたいという思いは「歴史もの」なので当然あります。 また、「因縁」やキャラクター同士の関係を描くうえで、虚構性やファンタジー要素が強すぎると説得力がなくなり、好ましくない。いっぽうで、どこかで‟外す”ことも絶対に重要だと思うんです。デフォルメ・脚色の条件に関しては「アクション」、そして「時代劇のエンタメ性」の魅力を高めるためなら問題ないという印象です。 理由としては、アクションに関しては面白くないと意味がないからです。たとえば「馬に乗る」動作に何フレームも要していたら、再現性が高いとしてもテンポが悪くて退屈ですよね。 プレイヤーは新しいことをドンドンやりたいものです。ですのでTeam NINJAはリアリティを重視しつつ、ゲームテンポは絶対に早く設計しています。 もうひとつの理由は、本作は再現性がもっとも重視される「時代モノ」ではなく、「時代劇」であるという点です。 そのため、ゲームが面白くなる要素であれば取り入れるべきだし、外連味もデフォルメも必要であると考えました。 ──なるほど。実際にプレイして、ゲームとしての面白さと歴史の面白さが噛み合ったバランスに仕上がっていると感じました。 安田氏: 僕は黒澤明の『用心棒』が好きで、本作のイメージにもすごく影響を与えていると思います。 同作で仲代達矢が演じるライバルキャラ・新田の卯之助は、舞台設定が幕末なのにマフラーを巻いているんですよ。仲代達矢の首がとにかく長いため、キャラクターのイメージにマッチしたシルエットにするために付けさせられたらしいんです。 時代背景を考えると大ウソなのですが、そのマフラーによって確かにシルエットがメチャクチャかっこ良くなっている。それを見て、「歴史ものとしてストイックに作るならナシだけど、劇ならマフラーもアリなんだ」と気付かされました。 この知見は、本作における脚色の判断に活かされていると思います。 ──『Rise of the Ronin』でも、主人公の初期装備はマフラーになっていますね。 安田氏: 気付けば『Ninja Gaiden』も『仁王』もマフラーでした。やはりアクションものではマフラーが動きをフォローしてくれるので、重宝しますね(笑)。 ──本作のフィクション要素としては「アビキル」をはじめとしたフィクション要素も印象的でした。 安田氏: ちょうど制作中に幕末の国友一貫斎という発明家が残した「アビキル」の設計図を見たんです。「これは絶対このゲームのために見つかったんだろう!」と運命を感じて、作品に取り入れました。 そういった「着想」などのポイントでは考証や検証などが多く、それをもとにアイデアを膨らませていくようなプロセスを辿って制作しています。 たとえば、「レーザー銃を出して良いか」と問われれば、あまりに荒唐無稽過ぎて絶対に「NO」ですよね。そういった意味で、発想元もひとつの基準になっていたように感じます。 ──作中では銃弾を「石火」で弾くと剣が燃えますが、なんとなく理由が想像できるために納得できるようになっていますね。 安田氏: いうなれば「嘘物理」ですよね。まさに「時代劇」であったり、いろんな剣劇系の漫画などでは、「あり得るかもしれないロマン」みたいなものを実現する為には、脚色も大いにアリなんじゃないかと考えています。 トレーラーだけを見た方は「いや剣に炎は付かないだろ」、「鍵縄で敵に飛んでいけないだろ」と感じると思うんです。ですが、実際にプレイしたアクションゲームの手触りの良さ、楽しさを感じていただければ、おそらく納得されると思います。 ──本作では浪人として史実に介入できる作品になっています。浪人の物語と歴史では、どちらが主体のシナリオとなるのでしょうか。 早矢仕氏: 主人公はあくまでも‟一介の浪人”なので、日本の歴史を動かす人物ではなく、「そこに居た人」という立ち位置です。そのため、当時の日本全体の動きや歴史が、主人公の行動によって変化することはありません。 本作では誰に力を貸すのかを選択し、ひとつの歴史を自身で選んだ立場から体験できる点が見どころになっていると思います。 安田氏: 本作には歴史という大きな幹だけではなく、その先にある枝葉のように、キャラクターたちとの「因縁」が描かれます。作中では討幕派を選択していても佐幕派の人間と「因縁」を深めることもできますし、個々のドラマにおいては決まり切った歴史に従わない展開もあるかもしれません。 思い通りに関係性を構築できるため、その点はぜひご自身でプレイし、確かめていただきたいです。 ──本作で映像監督とシナリオを務める大友啓史氏は、どのような経緯で開発に参加されたのでしょうか。 早矢仕氏: 「幕末」というテーマであれば大友さんにお願いしようと私が提案し、ご快諾をいただきました。開発のかなり早い段階から参加していただいています。 安田氏: 開発では演出に留まらず、構成やキャラクターの表現などにも携わっていただいています。作中ではキャラクターと出会った際に「因縁成立」と表示されるのですが、大友さんはそこにめちゃくちゃウケていて、開発に参加していただけることが決まった際には「因縁成立だね」と面白がっていました(笑)。 ──ちなみにですが、プレイしていて「因縁」をどのように英訳するのかも気になりました。 安田氏: 英語では「bond」になっているようです(笑)。 ──なるほど。大友さんは映像作品の監督として知られていますが、領域の異なるゲームの開発へどのように参加されたのでしょうか。 安田氏: おそらく、大友さんは『Rise of the Ronin』が初めてのゲーム開発への参加だと思います。 映画は基本的に「カッチリとした脚本」を用意し、撮影や編集を行っていくのだと思いますが、ゲームの場合は3Dなので何もできていないところからスタートし、毎日のように仕様も変わるんです。 たとえば、とあるキャラクターと出会うシーンのコンテを作成しても、そのステージがボス戦であればステージの形状も変わっていくし、敵のモーションによってもステージは変化します。 もちろん、3Dのモーションキャプチャーやアニマティクスといった工程により徐々に固まっていくのですが、やはりゲーム制作では非常に変更が多いんです。この作り方には非常に驚かれたのではないかと思いますが、そういった違いを楽しみながら演出していただきました。 ──大友さんが開発に携わることで、どのような魅力が作品に与えられましたか。 安田氏: 大友啓史氏はメチャクチャ幕末に詳しいので、我々が学ぶという側面も大きくありました。 また、「歴史を描きつつ、エンタメとして楽しく描きたい」という感性を持っている方ですので、先ほど述べた‟外し”の要素を取り入れる際に背中を押していただいたり、引っ張ってもらう場面もありましたね。 そういった点により、『Rise of the Ronin』にはTeam NINJAだけでは生み出せなかった演出や展開が用意できていると思います。 ──ゲーマーからしますと、本作のベンチマークとして『Ghost of Tsushima』が挙げられると思います。同作の存在を踏まえて、国内のデベロッパーとして、コーエーテクモだからこそ成し遂げられたところはどのような点でしょうか? 早矢仕氏: 『Ghost of Tsushima』はコーエーテクモの開発にいた身としても、やはり悔しかった部分はもちろんありました。また、そのタイミングではすでに『Rise of the Ronin』の開発がスタートしていたので、『Ghost of Tsushima』とは異なる魅力を表現しなければならないと考えていました。 いっぽう、『Ghost of Tsushima』は、日本ではない場所から日本を眼差すからこそ作れた作品だとも感じたんです。ですので、コーエーテクモがオープンワールドの作品を作れば、おのずと違う魅力を持つ作品になるという確信もありました。 本作は歴史に興味がない人でも楽しめる「歴史を使ったエンタメゲーム」を愚直に追求した作品になっているため、ぜひ実際にプレイして、楽しんでいただければ何よりです。 安田氏: やはり浪人を描く本作は、剣劇アクションと共に「何よりも自由である」こともテーマのひとつです。 ストーリーにおける選択の自由や、初めてチームとしてオープンワールドに挑戦したことなどにより、「自由である」ことの究極のかたちとして浪人を描いたつもりです。 この要素は他の歴史を扱った作品と似て非なるものだと思いますので、その点を感じ取っていただければうれしいです。(了) 『Rise of the Ronin』はスタイリッシュなアクション、オープンワールドの形式を駆使し、「時代劇」というクラシックなジャンルの美学を現代風に進化させる野心的な作品になっている。 本作のリアリティと外連味が共存した作風は、歴史にさほど興味がないプレイヤーにも、ゲームプレイを通して「歴史の魅力」をキャッチ―に伝えてくれるだろう。 本稿に掲載した情報は『Rise of the Ronin』の一端でしかないため、収録される多数のコンテンツのうちひとつでも関心があれば、ぜひ実際に‟浪人”として激動の幕末に足を踏み入れてみよう。 『Rise of the Ronin』の対応プラットフォームはPS5、3月22日に発売予定だ。
電ファミニコゲーマー:りつこ
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