杉野遥亮インタビュー 自分とは違う性格だからこそ演じるのは簡単ではなかった『風の奏の君へ』
自分の中の誇れるもの
――そうなんですね。ちなみに【渓哉】は茶葉を当てるのが得意ですが、自分の中で誇れるものはありますか。 「何もない」と自分では思っています。「何もない」と思えることは、認められつつあることに対して結構強いのではないかとも思っています。他の誰かから見たら「何もない」ということは「何かある」かもしれないですけど。でも自分で「ある」と分かっていると「何者かになろうとする」ので、「何もなくていい」と思うようにしようとし始めています。そうすることで強みになっていくのではないかと思っています。 ――先日、筒井真理子さんも同じようなことを話されていました。「自信が無くて、何もわからないけれど、だからこそ色々なものに変わることが出来るのかも」と。 本当ですか(驚)。そもそも何かを演じている時点でドラマだし、演技の世界なので、本当は何もしなくていいのかもしれないですよね。だってドラマで演じているわけで、何かになろうとしているのですから。 ――忙しい中で、自分を保つためにしていることはありますか。 それが上手くないので、忙しいとイライラしてしまうんです。どうやったら自分自身に立ち返られるのかが分からないんです。出来るだけホッとする時間を過ごせたらいいなと思っているんですが‥‥。特に連続ドラマは厳しいスケジュールの中で撮影をしているので、家に帰っても役のことを考えてしまうんです。役が抜けていかずにその世界に浸ってしまうので、それをどうにか切り替えられる方法が見つかればいいと思っています。 ――近々の展望を教えて下さい。 何でしょう‥‥、もっと毎日楽しいと思えたらいいですよね。展望ですか、ジェットコースターに乗りたいぐらいしかないですね(笑)。あと最近、自然がある所で映画やドラマを撮影するのが好きなんです。ロケがあると嬉しいです。だから2時間、海辺でただただゆっくりと過ごすだけの映画、例えば沖縄の離島でただただのんびり海を一日眺めているような映画に出演したいです(笑)。昔、兼重敦監督(『キセキ‐あの日のソビト‐』監督)と話をしていて「台湾をロードバイクで一周する映画を撮ろうよ」と言われたことがあるんです。その話が僕の中にまだ残っていて、「台湾をロードバイクで一周するような映画っていいな」って思ったのでまだ希望を持っているんです(笑)。 「自分とは違う性格だからこそ演じるのは簡単ではなかった」と言っていた杉野遥亮さん。大谷健太郎監督とは以前から交流があり、【渓哉】という役も大谷監督いわく自分の分身だから杉野さんにオファーしたそう。ピアノという才能を手にした憧れの女性と、茶香服の才能も抜群の器用な兄への嫉妬を抱える青年を存在だけで全て語った杉野さんは、この映画の核となるテーマを役を通して見事に表現していたのでした。
取材・文 / 伊藤さとり(映画パーソナリティ)