もはや「国民病」とも言える異常事態…ドロドロの「SNS炎上」がなくならない「衝撃の理由」
---------- 私たちがふだん意識せずに使っている「ことば」には、様々な謎が隠されている。それを知れば、もっと日本語が好きになるだろう。もしかしたら「ことば」を知ることで、より生きやすくなるかもしれない。『日本語の秘密』では、「ポケモン言語学」で知られる言語学者・川原繁人が俵万智(歌人)、山寺宏一(声優)、Mummy-D(ラッパー)、川添愛(言語)と「ことば」の本質に迫っている。 ※本記事は川原繁人『日本語の秘密』から抜粋・編集したものです ---------- 【画像】「クソどうでもいい仕事」はこうして生まれた
だからネットは「燃えて」しまう
いま、「言語学ブーム」が起きています。その背後には、現実的な理由も潜んでいるかもしれません。というのも、インターネットが広まったことにより、私たちのコミュニケーションにおいて書き言葉が占める割合は一気に増大し、必然的に音声ベースのコミュニケーションの割合は激減しました。一昔前までは音声で伝えていたことの多くの部分を、メールやSNSが媒介することになったのです。その便利さは否定できませんが、書き言葉が基本となるインターネット上のコミュニケーションでは、不必要なすれ違い――そして、それを原因とする「炎上」――が多発していることも事実です。 書き言葉では、音声が持つ「声色」「アクセント」「イントネーション」「間の取り方」など多くの要素が捨象されます。ですから、書き言葉を通してでは、相手の意図を誤解する可能性が高まるのは、ある意味当たり前のことです。このすれ違いの多さに危機感を覚え、「ことばとは何か改めて考えたい」と感じる人が増えているのではないでしょうか。 ことばというものは、物心ついた頃には習得しているもので、さらに毎日使っているものですから、そこにあることが当たり前な「空気」のような存在だと言えるでしょう。日常生活でいちいち空気について意識しないのと同様に、言語についても、改めて考えない人がほとんどでしょう。たしかに自分の体の中で、どの器官がどのように動いて声を発しているかなどを考えていたら人生忙しくてたまりません。しかし、空気と同じように、言語も人間の生活にとって必要不可欠なものです。だからこそ、(たまにでもいいから)言語と向き合うことの重要性が見直されているのでしょう。 「言語学ブーム」と言われるだけあって、近年では多数の言語学に関する好著が出版されています。そんな中、本書が他の書籍と決定的に違う点をあげるとすると、それは「切り口」と「捉え方」の多様性です。言語学者として、言語と向き合い続けて二十数年、痛感するのは、言語には実に様々な側面があるということです。 一方で、「言語の本質的な性質とはこれこれである。よって、言語学の分析手法はかくあらねばならない」と断定する研究者も少なくありません。たとえば、前述したチョムスキーが提唱した「生成文法」では、現在、「言語の本質」に関して非常に限定的な考え方をしていて、言語の多くの側面が「本質的でない」という理由で分析対象から外されます。若かりし頃の私は、生成文法家として研究を始めたのですが、その限定的な考え方と相容れないこともあり、主流の生成文法とは別のアプローチを探究することになりました。