榎本喜八さんを打率で上回っても打撃で勝ったとは思えなかった【張本勲の喝!!】
バッターボックスで“不動”を貫いた
榎本さんはまさに「精密機械」というべき素晴らしいバッティングの持ち主だった
私が現役時代に「ヒットを打つことでは敵わない」と感じた唯一の選手が榎本喜八さん(元大毎ほか)だ。最初に「安打製造機」と呼ばれ、首位打者を2度獲得した大打者だ。当時は1962年に打率.374をマークし、そこから2年連続で首位打者に輝いた近鉄のブルームという素晴らしいバッターもいたが、彼は得意のセーフティーバントでも打率を稼いでいた。私自身も7度、首位打者になっているが、足の速さを生かした内野安打も多かった。 しかし、榎本さんの内野安打やポテンヒットなどほとんど見たことがない。常にコンパクトに振り切り、いつもきれいなライナーで弾き返していた。しかも、どんなときでもスイングが変わらない。「精密機械」と称された理由だが、それほど完ぺきなバッティングをしていた。 榎本さんが打率.344で初めて首位打者に輝いた翌61年、私は.336を打って.331だった榎本さんをわずかに上回り、初の首位打者を獲得することができた。だが、いくら数字で上回っても、ヒットを打つ技術やバッティングそのものでは榎本さんに勝ったなどとはとても思えなかった。「首位打者を獲れたのはたまたまだ」「もっと練習しなければ次もいい成績は残せない」と気を引き締めていたものだ。 榎本さんは一度バッターボックスに入ってバットを構えると、ほとんど・・・
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週刊ベースボール