110年ぶりの新入幕優勝で凱旋（がいせん）パレードに臨んだ伊勢ケ浜親方（左）と尊富士。尊富士は常々、部屋に対する愛着を語っている＝5月1日、五所川原市

　110年ぶり新入幕優勝の偉業を達成した大相撲春場所から半年。秋場所、西十両11枚目尊富士（青森県五所川原市出身）は、けがによる2場所連続での休場を経て2度目の十両優勝で復活を印象付けた。土俵人生を支えているのは、所属する伊勢ケ浜部屋への深い愛着と誇りだ。 　場所直前、師匠の伊勢ケ浜親方（元横綱旭富士、つがる市出身）は「稽古を始めたのは最近。稽古しないと後半戦で疲れてしまう」と不安視していた。だが尊富士は「師匠、横綱（照ノ富士）が納得できる相撲を」と奮起した。ふたを開ければ他の十両力士を圧倒する「無双」状態。テレビで解説者席に座った伊勢ケ浜親方は「最後までしっかり頑張り優勝したのはすごい」と絶賛した。 　「生まれ変わっても伊勢ケ浜部屋へ」。尊富士は自分の部屋への愛着をこう表現する。部屋には兄弟子宝富士（中泊町出身）や錦富士（十和田市出身）の青森県出身者、そして横綱をはじめ翠富士、熱海富士、伯桜鵬と実力ある関取衆がそろう。尊富士は「自分が一番強くなれる所」として角界随一の稽古量と言われる同部屋を選び力を磨いた。 　鳥取城北高の先輩である横綱の存在は何より大きい。生きる手本であり春場所、横綱の「記憶に残る力士になれ」の一言を背に精神力で優勝をもぎ取った。 　錦富士いわく「普段からきつい稽古をして一緒にご飯を食べる仲だから」こそ、勝負を離れれば心を許し合える。支度部屋ではムードメーカ的な翠富士が尊富士を「いじる」など和気あいあい。錦富士は自分の付け人だった尊富士を「かわいい後輩」と目にかける。同じ右足首の故障について「連携しながら情報交換している」とも語った。 　「横綱不在の場所を活気付け、伊勢ケ浜部屋の力士として勝ちたい」「良い相撲を取って（幕内の）兄弟子につなげる」と人一倍「伊勢ケ浜愛」を語っていた尊富士。場所を終え「（今度は）僕も背中を見せられる強い力士になりたい」。入門から2年、新たな決意が芽生えた。