妊娠中から出産後1年まで同じ担当者が伴走 東京都の新事業 効果も検証
■効果は?
このモデル事業の効果を調べる指標の一つとして、都医学総合研究所は海外の論文などをもとに、妊産婦の「ゆとり感」を把握するアンケートを独自に考案。モデル事業の効果を調べた速報値を、報告会で発表した。 妊娠早期、妊娠後期、産後1か月、産後6か月、それぞれの時点の「ゆとり感」をはかったところ、従来の制度でサポートを受けた妊産婦の「ゆとり感」は妊娠早期と後期ではあまり変わらず、出産後は低下。一方、モデル事業でサポートを受けた妊産婦の「ゆとり感」は妊娠中に高まり、産後1か月で下がったものの、妊娠早期よりも高い状態を保ち、産後6か月ではプラス7.76にまで上昇していた。 従来の制度とモデル事業の対象者の「ゆとり感」は、産後1か月では、約4点の差があり、これは産後うつのリスクが半分になる状態だという。産後6か月時点では約10点差で、産後うつのリスクは、モデル事業の妊産婦では従来のサービスを受けた場合の20%にまで下がったことになるという。
■自治体の報告
モデル事業を行ったある自治体では、妊婦と月に1~2回対面し、産後の育児のイメージづくりをしたという。その際、自治体の担当者は、部屋が狭く、ベビーベッドが置けないなら布団を使おう、妊婦が語りたくないことを語らないのは当たり前だ、と思えるようになり、妊婦の生活スタイルを無理に変えようとしないなど、サポートする側の心の変化を実感したと報告した。
■専門家は
報告会では武蔵野大の中板育美教授が「この事業は妊娠期から福祉分野と保健分野が一緒に支援を開始することにより、妊婦さんへのアドバイスに一貫性が持てる。こども家庭センターを検討する時にも軸になる考え方、全国にも発信してほしい」と述べた。 また「行政側は、妊婦にこれをやるべき、これをしなさいと言いがちだが、妊婦は、まず自分が何を頑張っているか、してほしいかを聞いてほしいものだ」と聞く姿勢の重要性を改めて強調した。
■エビデンスがある政策に取り組む
モデル事業創設に携わった東京都医学総合研究所の社会健康医学研究センター長の西田淳志氏は、次のように解説した。 モデル事業の発端となった都児童福祉審議会の答申では、科学的根拠のある予防モデルの開発が要請された。効果が科学的に検証されている福祉政策はこれまで非常に少ない。行政は一生懸命、政策を実行したとしても、データからその成果が見いだされない場合、その結果に謙虚にならなければならない。 このモデル事業で、妊婦の「ゆとり感」の得点が上がってきたが、従来型支援を受けた妊産婦の「ゆとり感」が出産後、下がっている。似て非なる支援策がたくさんある中、エビデンスがあるサポートに積極的に取り組むかどうか、だ。 そして、このモデル事業を実施した自治体は、組織変革にも熱心に取り組まれたことも強調したい。母子保健部門と福祉部門は、強烈な縦割りで分断されてきた歴史があるので、4月以降、こども家庭センターができても、ただ物理的に横に座っただけではおそらく何も変わらない。管理職の意識を変えないと、組織変革は起こせないと強く訴えた。 東京都は、2024年度から3年間、この新しい妊産婦サポート策を「こども家庭センター体制強化事業」と名づけ、手をあげた自治体には、サポートのノウハウを提供し、人件費を補助する計画だ。 群れで子育てする「共同養育」が失われた現代、行政の担当者が妊産婦の話を否定せずに聞き、切れ目なく、困りごとを一緒に解決する新たな取り組みがどこまで広がるか注目される。