災害時のデマ情報拡散どう防ぐ 一呼吸おいて慎重に確認を 能登半島地震の事例から
災害時のデマの深刻な影響
デマは多くの場合、感情に訴える要素や「教えたい」という欲求を刺激する内容で構成される。不安や怒りといった強い感情や、利他的な動機によって人々はデマを拡散しやすい。実際、筆者の研究チームの調査によると、「不安に感じたから」とか「伝えることが他人や社会のためになると思った」という理由でデマを拡散している人が多いことが明らかになっている。 災害発生時のデマが引き起こす問題は甚大である。誤った情報に基づくパニックや混乱は、不適切な避難行動や物資の不正確な取り扱い、誤った対応へとつながり、被災地の事態を一層厳しくする。さらに、救助活動への悪影響も無視できない。無用の救助隊の派遣や地方自治体の業務の過重負荷が発生することがある。 社会的分断は、デマを信じる人々と信じない人々の間の亀裂を生み出し、特定のグループへの排除や差別を助長する。間違った自衛手段の普及は、逆に人々を危険にさらすリスクを増加させることもある。 そして何より深刻なのは、正確な情報の取得を困難にする点だ。災害時の正確な情報は、人命を守る行動を後押しし、災害対応に関わる全ての主体にとって意思決定の前提となり、被災者の心理に安心をもたらす。しかし、デマの流布は、提供される情報の信頼性全体を低下させる。この結果、人々が情報に対して持つ疑念が増し、適切な判断が難しくなる。
PV至上主義がデマの拡散を加速
能登半島沖地震で多くのデマが広がった理由として、「アテンション・エコノミー」(関心経済)が指摘されている。 あまり聞きなれない言葉だが、ネット上の情報が私たちの処理能力を超えて指数関数的に増加している現代においては、情報の質よりも人々の関心をいかに集めるかが重視される。その関心や注目の獲得度合いが経済的価値を持って交換財になるという概念だ。 それが分かりやすく形になっているのが、インターネット広告とPV至上主義である。広告収入で運営するウェブサイトにとっては、PV数を稼いで少しでも多くの広告収入を得ることが至上命題となったおり、その結果、情報の質よりも、「人々の関心を多くひく」ことに特化するようになっている。 アテンション・エコノミーは、ここ数年で急激に裾野が広がっている。かつては、マスメディアやネットメディアがPVを競っていたが、誰もが情報発信できる人類総メディア時代になり、個人でウェブサイトを作成したり動画を投稿したりして関心を集め、もうけることが可能になった。過激なコンテンツほど閲覧されやすくなるため、「暴露系」や、「迷惑系」、「私人逮捕系」のYou Tuberなど過激な動画を投稿して人々の注目を集める手法が活発になっている。 2023年8月からはX(旧Twitter)で、特定の条件を満たすユーザーに広告を分配する収益化プログラムが開始された。例えば、フォロワーが500人以上であること、過去3カ月のインプレッション(表示回数)が500万件以上であることが条件になっている。 XはYouTubeに比べて投稿のハードルが低く、拡散力がはるかに高い。より一層多くの人がアテンション・エコノミーに参入可能になったのである。その結果、人々の目を引くようなさまざまなデマが大量に投稿されることとなった。このシステムにより、アテンション・エコノミーは個人レベルに浸透し、ユーザーはより多くのフォロワーや表示回数を獲得するために、過激な投稿や偽情報を流布する動機付けを持つようになった。 能登半島沖地震では、デマが多く投稿されただけではなく、一度拡散されたデマが次から次へとコピーされ、改めて投稿されるという現象があった。いわゆる「パクツイ」ともいえる行為であるが、行っているアカウントが明らかに普段日本語を使用していないようなケースも少なくなかった。ユーザーの国内外問わず、表示回数稼ぎに参入し、大きなイベントが発生するたびにデマを生産したりコピーしたりすることがすでに起きているのだ。