2つの国際裁判所が下した「イスラエル」への厳しい判断…その背景にある「反イスラエル思想」の正体
ダブルスタンダードにも思える対応
こうした背景をみれば、ICCのネタニヤフ首相らに対する逮捕状請求も、ICJの攻撃停止命令も当然だった、と言えるだろう。 米共和党のトム・コットン上院議員ら12人は連名でICCを強く批判し「ネタニヤフ氏への逮捕状が発給されれば、米国はICCに制裁を課す」とのICC宛レターを公開した。「米国はICCによる同盟国への政治的攻撃を許さない。もしも逮捕状が出されたら、我々はICCに対する支持を終了し、ICCの雇用者と関係者を制裁し、本人とその家族の米国入国を禁止する」と宣言している。 以上の展開を俯瞰すれば、国際ルールの主導権をめぐる「米国・イスラエル」vs「イスラム諸国とハマス、ロシア、中国」の戦い、とみることもできる。米国とイスラエルは「ICCとICJが事実上、ハマスとその応援団の味方をしている」とみているのだ。 そんな認識を前提にして「ICCとICJの命令や指示には応じない」という姿勢だ。だが、そうなると、先の東京新聞のように「米国はプーチン氏への逮捕状を支持しておきながら、2重基準だ」という批判が出てくる。「米国は日ごろ『国際ルールを守れ』と訴えながら、自分に都合が悪くなると、無視するのか」という指摘もあるだろう。そこを、どう考えるか。
国際ルールを尊重し、自国の利益も守る
米外交誌、フォーリン・アフェアーズは5月24日付で「米国はICCを攻撃せずに、イスラエルを支援できる」という記事を掲載した。「イスラエルは自らネタニヤフ氏らを捜査し、必要なら起訴すればいい。そうすれば、結果として最終的に無罪となっても、ICCは手出しができない」という。 どういうことか。ICCは、設立根拠であるローマ規程で「国家が容疑者を捜査できず、起訴もできないときに管轄権を行使できる」と定めている。そうだとすると、イスラエル自身がネタニヤフ氏らを捜査し、起訴するなら、ICCの出番はないのだ。 まるで「ひょうたんから駒」というか、手品のような話だが、筆者のオーナ・ハザウェイ・イェール大学教授は国際法の専門家であり、米国防総省の特別顧問を務めた経験もある。この主張通りなら、ICCの逮捕状は空回りする。ICJの攻撃停止命令も、実際には無視されている。 こういう論点をフォーリン・アフェアーズが提供した点が興味深い。 この雑誌は、米国が築き上げてきた国際秩序を維持するうえで、特別の役割を果たしてきた。米国は「米軍人の身柄をICCに委ねるわけにはいかない」という理由でICCに加盟していない。だからといって「ICCを無視すれば、それでOKというわけでもない」というメッセージを送っている。国際ルールを尊重しつつ、米国の利益も守ろうというのだ。
どこか傍観者的な態度
日本はどうか。 林芳正官房長官は記者会見で、ネタニヤフ首相らへの逮捕状請求について「重大な関心をもって、動向を注視する」、ラファ停戦については「命令は当事国を法的に拘束するもので、誠実に履行されるべきだ」と語った。 どこか、傍観者的態度である。「戦争と国際ルール」について独自の見識を示してもらいたいものだが、岸田政権には「ないものねだり」のようだ。
長谷川 幸洋(ジャーナリスト)