1対1での強さに"緻密さ"が加わり、いざ関立戦 関学OL近藤剣之介「10年後に名前が出されるぐらいの選手に」
最初のカルチャーショック「首か肩か問題」
関学のOLの一員になって最初のカルチャーショックは「首か肩か問題」だった。「アサイメントでLBをとる(ブロックする)とき、関学では『このLBの左首をとるか、左肩をとるか』がテーマになるんです。首か肩かなんて、正直一緒じゃないですか。でも関学では違うんです。『バックの走る位置がここやから、お前は左肩をとるんや』と。プレーごとにそういう話になるんで、もう驚くばかりでした」。がむしゃらにやっていく中で、気づいた。「僕が強くなるより、キャリアーが僕の走らせたいところを走ってくれるのが、チームが勝ちに近づくことなんだと実感できました。このままやっていけば日本一のOLになれると感じました」 だが1年の春にまた大けがをして、スタメン出場は2年の秋からになった。ここから77番の快進撃が始まる。ポジションはOLの5人が横に並ぶ左端の左タックルだ。まあ強い、強い。「総じて2年、3年のアメフトは楽しかったです」。ただ関学は4年生のチーム。最上級生になると、近藤にはより「関学のOLであること」が求められた。「いまが一番大変です」。今年に入って何度か近藤からそんな言葉を聞いた。 学生最後の夏合宿。最終日恒例の「サークルドリル」でオフェンスとディフェンスの1対1の勝負が繰り広げられていった。トリを務めたのが近藤と4年生DLの川村匠史(清風)だ。真っ正面からぶつかり合うガチンコ勝負。近藤は押し下げられはしなかったものの、川村を押し込めなかったため、負けた。ディフェンスのメンバーたちは大はしゃぎで川村をたたえたそうだ。それぐらいに「近藤は強い」と認められているのが分かる。昨年まで、近藤は1学年上のDLだったトゥローター ショーン礼(現・オービック)に1対1の勝負を挑んできた。2022年の年間最優秀選手に輝いたショーンは最強だった。練習後の「アフター」でショーンに挑み続け、強さに磨きをかけた。
10年後も名前が出るような選手に
昨年の春、近藤のラフプレーの動画がSNSに流れたことがあった。立教大学との交流戦で相手のDLをなぎ倒したあと、不必要なアタックがあった。反則は取られなかったが、近藤は大いに反省した。「僕のフィニッシュ(最後まで相手を圧倒しにいく)に対する意識がルールの範疇(はんちゅう)を超えてしまっていて、もう完全に僕が悪かったんです」。今年の春も立教との試合があったから、近藤は一人で相手のサイドに行って、その選手に謝った。「あれがあったから俺も強くなれたんだよ」と言ってくれたので、少し救われた気がした。 目指してきたOLがいる。2017年度の関学の主将だった井若大知さんだ。近藤より身長は15cmも低いが、彼は毎プレーのように審判の笛が鳴り終わるまで徹底的に相手をぶちのめしにいった。「僕にとって関学OLの伝説が井若さんです。もう卒業してかなり経つのに、ずっとチーム内で『井若はすごかった』って言われてます。僕もそのレベルになって終わりたい。10年後に関学のOLの間で名前が出されるぐらいの選手になりたいです」 同期のOLでずっと一緒に試合に出ている副キャプテンの巽章太郎(関西学院)は近藤について、「大学のOLのトップ選手だと思いますし、技術もパッションもある選手で頼もしい存在ですけど、まだ粗削りな部分もあるので、ここからしっかりやってくれれば最強のバウンダリータックル(QBの背中サイドを守るタックル)になれると思います」。また1年生からOLのスターターに定着した同期の森永大為(関西学院)は「近藤は高校からスター選手でした。大学で一緒になって、最初はファンダメンタルの部分が僕らとは全然違ってて苦労してましたけど、いまは関学式のファンダメンタルをしっかり吸収して、かつ自分のファンダメンタルを崩さず、すごくいい形でやってます」と語っている。大村和輝監督は「1対1は非常に強いし、そのこだわりが強かった。それをみんなでやっていく感覚が昔はあんまりなかったけど、いまは随分考えてやるようになりました」と評する。
同期の絆は関西ナンバーワン
OLの同期たちと一緒にプレーできるのもあとわずか。「もう佳境といいますか、常に同期のメンバーとは同じ時間を過ごしてます。オフの日も集まって話したりしてるので、そういった絆というのは関西で一番だと思ってます」。そう言って近藤はうれしそうに笑った。 さあ、リーグ戦としては学生最後の関立戦だ。強さと賢さ、どちらも追い求めてきた剣之介が、アニマルリッツたちにぶちかます。
篠原大輔