ムロツヨシ×平手友梨奈『うち弁』で開花した新たな魅力 ハマり役だった“くらあん”コンビ
「まったく、手がかかるなあ!!」 そう言って杏(平手友梨奈)を探す香澄法律事務所の面々は、どこか嬉しそうな表情をしていた。みんな、仲間である杏のために動けることが嬉しいのだろう。最初は人と話すことを怖がっていた杏も、今ならこの周囲からの愛の大きさを分かってくれると思う。元芸能マネージャーで今や超敏腕パラリーガルとなった蔵前(ムロツヨシ)と超天才の新人弁護士・杏、双方の成長を描いた『うちの弁護士は手がかかる』(フジテレビ系)がいよいよ最終回を迎える。 【写真】ムロツヨシ×平手友梨奈インタビュー撮り下ろしカット 映画やドラマに数多く出演し、誰も真似できない唯一無二の俳優となっているムロツヨシと話題作に続々と出演し、女優として存在感が増している平手友梨奈。この2人がリーガルドラマで共演と発表された時は、どんなドラマになるのか想像もできなかった。しかし、蓋を開けてみれば、平手はムロ色の強いコメディチックな空気感にも凛としたまま馴染んでおり、ムロが末っ子感ある平手にぶんぶん振り回されている様子はなんだか微笑ましく観ていられた。ムロも平手も、本作で新たな魅力が開花したように思えてならない。 芸能マネージャーとして30年間も笠原(吉瀬美智子)を支えてきた蔵前は、年齢で言えばおそらく50代前後。この年齢になれば仕事にも飽きてダラダラする人もいるだろうが、蔵前は精力的に仕事に励んでいた。芸能マネージャーとしては笠原と目標にしていた「世界進出」が目前で叶いそうだということも原動力になっただろうが、杏のパラリーガルとなってもよく働いていたことから、蔵前を支えてきたのは「人から必要とされている」という意識だったのではないだろうか。 局の垣根を越えて往年のドラマのワンシーンをモノマネしてヘラヘラしている蔵前が、ふとしたことから「自分が必要とされていない」と落ち込む姿には、彼がいつでも真剣に仕事に向き合っているからこそ胸が痛くなった。年齢を重ねると人は、「大人だから」「経験が豊富だから」と強がったり、取り繕ってしまうことがある。でも“おじさん”になっても辛いものは辛いし、弱いところだってある。ムロが役柄と同年代だからこそできる演技は、“おじさん”の繊細な心の内を感じさせ、じわじわと響いてくるものがあった。人間的な弱さを自覚しながらも、前へ前へ進んでいく蔵前。そんな姿に励まされた人も多かったのではないだろうか。 一方の杏について考えてみよう。平手にとって杏という役は、正直、かなりのハマり役だった。これまで平手は、圧倒的な文才を持った現役女子高生やIQ162の人気インフルエンサーなどいつも「ずば抜けた何か」を持っている人を演じることが多かった。そういう意味では、高校3年生の時には司法試験に合格していた杏も同じように見えるが、杏にはそこに加えていい意味で“お子ちゃま感”があった。それがこれまでにないハマり役を生み出す要因となっている。 クールでスマートな感じは残しつつ、大人たちに構われ、最初は駄々をこねるように突っぱねていたものの、次第に不器用ながらに甘えようとしてる姿には成長とともにかわいさが感じられた。今では香澄法律事務所の団体芸にも参加。カオリ(安達祐実)が笠原のマネージャーとして挨拶にきた時も「元カノですね」となんだか楽しそうに言ってのけた。これから平手はさまざまな作品で女優としてのキャリアを積んでいくことだろう。時折キュートな杏に、もっといろいろな平手の演技を見てみたいと思わせられた。 杏にとってのラスボスはやはり、姉のさくら(江口のりこ)だった。何がなんでも杏を標的にしているさくらは執念深く、怖すぎる。杏の恩師である椿原(野間口徹)も「安心して。僕は誰にも言わない。この話は墓まで持っていく」と、あたかも、杏の父・昌幸(山崎一)が不正を働いて司法試験に合格させたようなことを言い、杏の味方になってくれるかは怪しい。 くらあんコンビはやっと自分たちがベストパートナーであるということに気づいたのだ。もっと香澄法律事務所でみんなでワイワイしている蔵前とツンケンしつつも楽しそうにしている杏が見たい。これは何があっても引いてはならない勝負だ。くらあんコンビの絆の強さに期待したい。 “私からは以上です”。
久保田ひかる