最後までナチスに抵抗し続けた、ノルウェー国王、ホーコン7世とは?
私の時代考証アシスタントは皆90歳以上 歴史的事実の体験者が亡くなる前に
さて、ではなぜ今この映画を撮ろうと思ったのか? ポッペ:「まず、歴史的な事実を体験した方が亡くなってしまう前に作りたかったから。語られていることが事実かどうか検証したかったのです。撮影現場には大抵時代考証などを行うパーソナルアシスタントをつけますが、たぶん私はその記録を作ったと思います。私のアシスタントは、皆90歳以上でしたので(笑)。彼らは、言葉遣いやしぐさなど細かいところまで指摘してくれました。私は、彼らにこそこの映画を見てもらい、お孫さんたちと語り合ってほしかったのです。この時、自分がどこでなにをしていたかと」 今年の夏は、日本でも第2次世界大戦を扱ったドキュメンタリーが数多く放送された。機密文書の期限が過ぎて開示されたのも多数作られることになった理由だと思うが、体験者から証言を聞けるタイムリミットが近づいていたことも大きいのだと思う。ポッペ監督は、もうひとつの理由も教えてくれた。 ポッペ:「もうひとつの理由は、今の時代にきちんとリーダーシップを発揮できる、ホーコン7世のような人がいないことです。ホーコン7世は、自身や家族を犠牲にしても国民にベストを尽くそうとしました。たとえばアメリカの大統領。彼は国民のためにすべきことを、自分の利益のために行っているように見えます。そんな時代だからこそ、リーダーとはなにか? リーダーとはどんな人物たるべきなのか? を考え、自分たちにふさわしいリーダーを選ぼうと呼びかけたいと思ったのです。また民主主義のために立ち上がること、その犠牲についても描いています」
ジャーナリスト出身ならではのリアルな再現とアーティストとしての表現で真実を伝える
映画は、ノルウェーで3週続けて興行ランキング1位、スカンディナヴィアでも大ヒットした。 ポッペ:「この映画の観客は、4つの世代にわたっています。自分の世代の物語でなくても、若い人はそれが真実であり、興味深く、質の高いものであれば喜んで見てくれるということを証明することができました」 「映画監督は、若い人に受けようと考えないほうがいい」とポッペ監督はいう。この映画で描かれる戦闘シーンは生々しくリアルだ。 ポッペ:「手持ちカメラを2台入れ、俳優にはカメラにぶつかっても演技を続けるように伝え、まるでドキュメンタリーのように撮影しました。カメラマン同士がぶつかったりしながらも、すべてワンテイクで撮りました」 その臨場感は“戦場体験”を売りにした『ダンケルク』にも並ぶ。ジャーナリスト出身であることが演出に影響しているのかと聞いてみた。実体験をもとに女性戦場カメラマンを描いた『おやすみなさいを言いたくて』でもそう感じたからだ。 ポッペ:「ジャーナリストだった影響もあると思いますが、僕はよりよきアーティストでありたいと思っています。ジャーナリストが伝えられることには限界がありますが、アーティストはいろいろな感情を盛り込むことで、“事実”ではなく“真実”を伝えることができるので」 なるべくリアルに再現するために、ロケセットはすべて本物を使わせてもらったのだという。 ポッペ:「ロケーションは王宮をふくめ全部本物です。だから、ホーコン7世が妻の写真に別れを告げる撮影の隣室では、実際に現国王が仕事をされていました。カメラを持って壁に貼りついている私に、現国王が「今撮影中だから大きな声で話せないんだ」と電話口で話されているのが聞こえました(笑)」