元世界ヘビー級王者が太鼓判!「胸が躍る逸材だ」 中谷潤人は問題なく三階級制覇する
「おぉ。こりゃあ見事なノックアウトだ! タイミングといい、角度といい、パーフェクト。マジで惚れ惚れするね。ナオヤ・イノウエも素晴らしいが、また新たなジャパニーズ・スターが現れたって感じだ」 【画像】す、素晴らしいツヤだ! 元世界ヘビー級チャンプが太鼓判を押した中谷潤人の肉体 ’23年5月20日にラスベガスで催されたWBOスーパーフライ級王座決定戦で、中谷潤人(26)がカウンターの左フックをヒットさせてアンドリュー・モロニーを沈めたシーンを目にしながら、元世界ヘビー級チャンピオンのティム・ウィザスプーン(66)は語った。 「美しい一発だ。ジュント・ナカタニか……。KO of the Yearを受賞するのも当然だな。2回、11回とダウンを奪っていたんだから、正直なところ、最終ラウンドは足を使って捌くだけでも彼は2階級制覇を達成できた。でも、試合終了のゴング21秒前に倒しにいくんだから脱帽だ。メンタルも強いね。こういうタイプはアメリカでも人気が出るだろう」 ティムは、来たる24日に両国国技館で3階級制覇を懸けてWBCバンタム級チャンピオン、アレクサンドロ・サンティアゴに挑む中谷潤人の映像を見ていた。 「ジュントはリーチがあって、このクラスにしては背が高い。体格的なアドバンテージを生かしている。自分の距離を譲らない点に、スマートさを感じる。ジャブも鋭いし、ストレートにも伸びがある。アッパー、フックも切れ味抜群だ。 ただ、ちょっと気になるのが、接近戦になった時のフックの軌道が大きめになること。脇が開いてしまうと、そこを狙われる。例えばナオヤ・イノウエがジュントと戦ったとしたら、間違いなく突いてくるだろうな」 訊ねた訳ではないのに、2度世界ヘビー級王座を獲得した(1984年WBC/1986年WBA)ティムは、井上尚弥vs.中谷潤人について語り始めた。 「1クラスしか違わないし、両者が戦えば日本におけるメガ・ファイトとなる。ナオヤは今がピーク。ジュントは伸び盛り。1年半後くらいに実現したら面白いね。統一スーパーバンタム級チャンピオンの今の戦績が26戦全勝23KOで、近くWBCバンタム級のベルトを巻くジュントも26戦全勝19KOなんて、数字で見比べたって興味津々だよ。 ボクサーってのは、30戦を超えると、どこかが痛んでくる。今後、2人はそういったものとも戦わなきゃいけない。ただ、現時点ではナオヤの方が全ての面で一枚上だな。最も大きな差は、爆発力かもしれない」 中谷も差を認め、「自分の前を走っている超一流の世界チャンピオンの存在を嬉しく思います」と発言をしていることを、私は伝えた。 「素直な選手は間違いなく伸びるぜ。俺にとっての目標は、モハメド・アリやジョー・フレージャーだった。でも、アリとは16歳違いで、フレージャーだって14歳も上だから、対戦は現実的じゃなかったね。俺がアリのスパーリングパートナーを務めたのは、アリが一度引退し、カムバックを決めた頃だ。38歳だったアリは、もう昔の動きができなかった。スパーの最中、俺は彼にダメージを与えないようにしなければと、100パーセントの力では打たなかった。ボディには何発か入れたけどね。 ナオヤとジュントは同じ時代に生きている。対戦の可能性はあるだろう。’23年の年間最優秀選手と、ベストKOの受賞者が出たんだ。日本のプロモーターは、これ以上ないドル箱カードと感じている筈だ」 ティムは、モロニーを最終ラウンドでKOした中谷が、4ヵ月後のWBOスーパーフライ級タイトル初防衛戦で、アルヒ・コルテスをこれまた3度倒しながら、判定勝ちした一戦の映像にも目をやった。 「モロニー戦のジュントのほうが動きが鋭い。これって、減量の影響じゃないか?」 かなり苦しみました。なぜ分かったんですか? と応じると、ティムは言った。 「いったい何年、俺がボクシング界で生きていると思っているんだ。パンチ一つ、ステップ一つを見たって、本来のジュントじゃない。モロニー戦の彼だったら、倒し切ったよ。この試合後に、バンタムに上げることを決めたんだろう? 正解だ。118パウンドになれば、彼は溌溂と戦うさ」 元世界ヘビー級チャンプは問わず語りに続けた。 「ナオヤといい、ジュントいい、ファンが喜ぶ素晴らしいファイトをしている。ボクシングの魅力を、ふんだんに見せているな。心から拍手を送るよ。その反面、今のヘビー級はレベルが落ちちまった。トップファイターと呼ばれる奴らの試合といったって、目を覆いたくなる内容ばかりだ。 世界チャンプとなるような人間は、誰だってオフェンスに光るものを持っている。が、今日のヘビー級で、ディフェンス面を褒められる選手は皆無だ。その点、ナオヤもジュントも相手のパンチの殺し方を知っている。だから、見ていて気持ちがいいんだ」 ティムは画面から視線を逸らさずに話した。 「言うまでもないが、ジュントは距離を取った戦い方をすべき。しかしながら、ヘッドスリップで中に入っての接近戦をしなければならない局面だってある。思い切り、左、右と肩を交互に揺さぶりながら相手のパンチを躱すことも勧めたい。フレージャーが得意としていたテクニックだよ。俺も散々真似た。 コルテス戦で、ジュントは一発右をもらっているな。両膝を折って避けてほしかった。どんどん身体が大きくなっているってことは、また階級を上げる日が来る。対戦相手だってデカくなるし、パンチ力も増す。だから、ディフェンスを徹底的に磨かねば。技術の向上に、限界はないから」 ティムは、バンタムに転向した中谷は、より自身の良さを発揮すると断言した。 「減量でフラフラになってしまった前回の試合よりも、スピード感溢れるボクシングができるだろう。ジュントがどんなパフォーマンスをするのか、楽しみだね」 その後、ティムの前でWBCバンタム級王者、アレクサンドロ・サンティアゴの試合映像を再生した。’21年11月27日にゲーリー・アントニオ・ラッセルに判定負けした一戦と、昨年7月29日に、井上尚弥の返上によって空位となった同タイトルをノニト・ドネアと争い、3-0の判定で勝利したファイトだ。 「ラッセル戦のサンティアゴは上手くプレッシャーをかけて、距離を詰めている。そこで5発、6発とパンチをまとめられるところが強みだね。でも、長身のサウスポーという点で、ラッセルとジュントに共通点があると考えるのは的外れだ。スピードも技術も雲泥の差だよ。 ジュントはポジション取りも巧みだから、サンティアゴは捕まえられないだろう。立ち上がりは、ジュントの速いストレートが鍵になると俺は見る」 井上尚弥と2度戦ったノニト・ドネアは、40歳にして王座返り咲きを目指したが、13歳若いサンティアゴに打ち負けた。116-112が2名と115-113の3-0で、サンティアゴが王座を獲得した。ドネアにとっては、’22年6月7日に井上尚弥との第2戦で2回KO負けして以来のリングだった。 「ドネアは終始、元気がなかった。イノウエ戦のダメージが抜けていなかったのかもな。加齢で衰えた部分も勿論あるさ。それでも第3ラウンドの打ち合いのなかで左フックをクリーンヒットし、サンティアゴをグラつかせている。百戦錬磨のベテランらしい技術だよ。こういうパンチをもらってしまうと、命取りになる。 手数とイキの良さが明暗を分けた。サンティアゴは、本当によく手を出す。恐れを知らずに前に出る姿勢は、ジャッジにも好印象を与えるだろう。それでもジュントが、この連打を喰うとは思えない。フットワークで捌くよ。そして遠目からのストレート、くっついたら、アッパーカットで試合を決めるだろうな。俺は中盤以降に、ジュントのKO勝ちを予想するね」 ティムは付け加えた。 「ジュントは、KO of the Yearを連続で、あるいは、Fighter of the Yearだって狙える。どこまで大きくなるか、胸が躍る逸材だ。俺も期待して見守るよ」 24日、中谷潤人は、3本目の世界タイトルを獲得するに違いない。その次は、バンタムでの統一戦か。モンスターを追う彼もまた、己の時代を築こうとしている。 撮影・文:林壮一 1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。
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