『光る君へ』題字に込めた思い「日本書道の特徴と美しさを伝えたい」 書家・根本知氏が語る
自分の書をきっかけに歴史や文学に興味を持ってもらえたら
書家としての抱負も聞いてみると、「自分がアーティストとして売れっ子になりたいということは考えていなくて、書を通して、今の若い世や次の世代が文学に魅力を感じてもらうことが一番大事だと思っています」と思いを明かす。 根本氏が書や平安時代に興味を抱くきっかけになったのは、風神雷神図を生み出した画家・俵屋宗達を育てた本阿弥光悦だという。 「本阿弥光悦は安土桃山時代の人なのですが、僕は彼の書にとても感動したんです。彼の書はなんでかっこいいんだろうと思ったら、彼は平安時代がとにかく好きで、平安時代の仮名を勉強していた。でも彼は、平安の字ではなく安土桃山の字を書いていて、誰も見たことのないような新しい表現をしていて、絵と書のコラボレーションまでしています。それを見て僕は『かっこいい』と一目ぼれしたわけですが、光悦は平安を見ていたんだと知り、僕も平安を調べるようになりました」 『光る君へ』では書道指導も務め、根本氏自身、改めて平安時代の文字と向き合う機会に。「今年は『光る君へ』を通して平安の書を世に伝えることに従事し、古典に回帰するという、自分の中でも改めて勉強させてもらっています」と語る。
ゆくゆくは、自分にしか書けないオリジナルの仮名を書きたいと考えている。 「“根本さんの字だよね”と言ってもらえるような、この令和の時代にしか書けない僕の仮名を、何かの真似ではなく、自分の呼吸で書くことが目標です」 そして、自分の文字をきっかけに、歴史や文学に興味を持ってもらえたらと期待する。 「なんで根本はこういう字を書いたんだろうと思った時に、私の目を見てほしい。こういう活動をしていたんだ、大河ドラマでは平安の字を書いていたんだ、でもこの人は安土桃山について学んでいたんだ、憧れていた光悦はどんな人だろうと。自分の書をきっかけに、次の世代が日本の文化ってかっこいいなと思ってもらえたらうれしいです」 さらに、「全国に小筆の書道教室ができることが夢です」とも話し、「『光る君へ』をきっかけに小筆の仮名っていいよねと興味を持ってもらえたら。そしてその中で、根本の作品もいいよねと思ってもらって、歴史や文化にもつながっていくといいなと思います」と願いを込めた。
■根本知(ねもと・さとし) 埼玉県出身。大東文化大学大学院博士課程修了、2013年博士号(書道学)取得。大学で教鞭を執るかたわら、かな書道の教室やペン習字の講座を開く。2016年に初の個展を開催し、2019年にはニューヨークにて個展を開催。2024年の大河ドラマ『光る君へ』で題字と書道指導を担当している。 (C)NHK
酒井青子