映像作家・山田健人が、ものづくりの現場で感じる「美しさ」とは?
多くのアーティストのライブ演出を手掛ける気鋭の映像作家、山田健人。バンド・yahyelのVJ、ギタリストとしても活動するなど、マルチに才能を発揮している。 10月からは、J-WAVEでレギュラー番組『THE PLAYBACK』(毎週金曜23:00-23:30)がスタートした。映像の世界で表現を続ける彼が自らの言葉でラジオの「音だけ」の世界で音楽、そして映像の世界を言語化していくという内容だ。ラジオに対する思いを皮切りに、映像や音楽についてたっぷりと話を聞いた。
「映像を言語化する」というおもしろさ
──映像作家がラジオでレギュラー番組を持つというのは、あまりないことだと思います。『THE PLAYBACK』を始めてみていかがですか? ラジオはこれまでも、個人として、あるいは自分がやっているバンドのyahyelのメンバーとしてゲスト出演させていただく機会があったので、おしゃべり自体に苦手意識はなく、オファーを受けたときは「自分ひとりで番組を持つ」ことにワクワクしました。 始めてみると、時間の制約がある中でしゃべる難しさを感じました。『THE PLAYBACK』は少しニッチで専門的なテーマも多く、丁寧にやろうと思えば無限に話せるだけに、30分間でどうやったらみなさんに伝わるのかという葛藤は日々あります。まだ慣れてきたという意識はないですね。甘噛みもずっとしていますし(笑)。普段のテンションのままでしゃべれるゆるい番組の雰囲気は、自分のキャラには合っていてよかったなと思いました。 ──素の山田さんを感じることができる番組だなと思いました。 ありがとうございます。台本はもちろんいただいていますけど、だいたいはアドリブなんです。台本に書いてあることを何となく自分なりに噛み砕いて話しているというか。その場で出てきた言葉を発している感じがします。 ──先ほど、ニッチで専門的な番組というお話があったように、『THE PLAYBACK』は「映像を言語化する」というテーマが設けられています。 ちょっと御法度系ですよね(笑)。ただ、おもしろい試みだと思っています。いつもは、音楽や言語を映像化している人間が、ラジオでは逆のことをしている。話すために整理をすることは自分自身のためにもなっていますし、特にそれを人にお伝えしようという心意気でやることは、どこか学校のような感じというか。言語化の難しさは感じますが、ワクワクは常にあります。 アリーナクラス、スタジアムクラスのライブがどうできあがっていくのか、ライブ制作の裏側について話した2023年11月17日(金)のオンエア。radikoで24日(金)28時ごろまで再生可能 ――山田さんは映像を制作する際、「言語化」と向き合う時間はありますか? あります。MVなどの映像を撮る際は、最初に企画書を作って「今回はこういうものを撮りたい」というイメージを共有するんです。映像作家によって企画書の作り方は違って、一行で書き表す方もいれば、絵コンテの方もいるのですが、僕はできるだけ文章をメインにしていて。あとは、アーティストと言葉を介して企画を説明していくことも言語化ですよね。頭の中で思い描いたことを言語に落とす瞬間が映像制作のプロセスの中で必ずあるので、ある意味では「いつもしていることを、ラジオでもやっている」と言えるかもしれません。ただ、今回の番組は自分の作品ではなく、人の作品や既存の技術を言語化することにトライしています。それも、「該当の映像を観ていない人にも伝わるように」という想定なので新鮮ですね。 ――映像や、その周辺のトピックに特化した番組は珍しいですよね。 普通に考えたらよくわからないですもんね、ラジオで映像そのものを語るって(笑)。でも、だからこそおもしろいと思います。 僕は本も好きなんですけど、言葉と映像を比較したときに、映像は情報が多すぎると感じる部分もあって。例えば、本に「赤いリンゴ」と書いてあったら、どんな赤なのかを想像しますよね。ある種、定義が読み手に委ねられている。一方で映像は、あらゆる情報が内包されるので、こちらで定義するという側面が強い表現だと思うんです。 「ハリーポッター」を例にすると、僕が本を読んだとき、ハリーの見た目はダニエル・ラドクリフの印象ではなかったんです。もっと髪がボサボサな少年を想像していました。あとは、『リング』の貞子もそうですよね。あの作品も、映像の内包する情報が多く、インパクトも強くて、そちらのほうがパブリック化している。 ──たしかに「貞子」と聞くと、設定よりも先に、白いワンピースで、長い髪を前に垂らしていて……といった視覚的な情報が浮かぶ人が多そうですね。 言葉に想像の余地があるからこそ、僕は映像を言語化するという試みにおもしろさを感じるんです。テレビなどで「このMVをおすすめします」と言われて映像が流れるのとは違う、まずはラジオで僕の言葉を聴いて想像してみてもらって、そのあと各々で答え合わせができるというか、二度おいしい感じがある番組だと思います。 ――先ほど、「本がお好き」とおっしゃっていましたが、具体的にはどういう作品を読まれるのでしょう。 小説や学術書など幅広く読みます。小説家でひとり挙げるなら、谷崎潤一郎。職業病みたいなもので、僕は本を読んでいると自然に頭の中で視覚化されるんですけど、彼の作品は1行で1本撮れるほどの奥行きを感じるんです。 ――山田さんの中で、映像と言葉はある種、地続きな部分がある? そうかもしれません。MVやライブの演出をする際も、音像感だけでなく、歌詞をすごく大事にします。どういう歌詞なのかを意識し、そこから想像の一歩目を踏み出していく感じがありますね。 ――今後、ラジオを通してやってみたいことはありますか? 誰かとお話はしてみたいですね。僕は関わるアーティストも多いので、ゲストにお招きして、MVやライブの裏側の話を話せたらいいなという思いがあります。