『ブギウギ』めでたい話に流れる不穏な空気 スズ子、愛助、トミそれぞれの思惑が交錯する
スズ子がつとめて明るく振る舞うのは別の理由もあった。「ワテはきちんと愛助さんと結婚してからこの子を産みたいんです。この子を父なし子だけにはしとうないんです」とスズ子は語る。自身の味わった苦しみを赤ん坊に味わわせたくないという親心だ。ツヤ(水川あさみ)と梅吉(柳葉敏郎)の実の子どもではなかったことは、スズ子の中で消えない傷として残っていた。 産まれてくる子どもと愛助のため。そのためなら歌手をやめることくらいどうってことないとスズ子は思っているのかもしれない。愛助に止められ、羽鳥(草彅剛)に説得されて思いとどまっているが、いつでも投げ出す覚悟はできている。スズ子の芯にあるのは愛することへの渇望だと思う。愛されてこの世に生まれてきたわけではない自分は、ありったけの愛情を我が子に注いであげたい。スズ子は気づいていないが、そうすることでかつての自分を救うことにもなる。 そんなスズ子にとって愛助との結婚は譲れない一線である。けれども歌手・福来スズ子の最大の理解者である愛助は、スズ子が歌手をやめることを望んでいない。一方でトミが妥協することもないだろう。何があってもトミは愛助と村山興業を守り抜きたいからだ。誰かが何かを諦めるしかない。がんじがらめの状況に出口はあるのだろうか。
石河コウヘイ