紙とマルチメディアの融合 AR導入進む自治体広報誌
ITの進展が寄与
次に、スマートフォンやタブレットといったスマートデバイスの急速な普及が挙げられます。これまで特別だった情報機器を誰でも持てる時代に入り、紙面の情報に加え、マルチメディアならではの付加価値情報を享受しやすい環境ができたということです。気軽に紙面にかざすことができないパソコンでは、普及しにくい技術でした。 情報を提供する自治体側のIT技術の進展も無関係ではありません。民間企業の広報や宣伝は、商品を売ることで広報・宣伝費用を回収します。しかし、自治体の場合は商品を売るわけではないので、業者に動画を制作してもらうなど潤沢な予算があるわけではありませんでした。 しかし、ITの技術が進展したことで、動画の編集に特別な機械が不要になり、コンテンツ制作にかかるコストは安くなり、動画やARのアニメーションが容易に作れるようになっています。大阪府、豊中市、登別市も無償で提供を受けたり、自前で動画を作ったり、と余計なコストをかけていないのが大きな特徴です。 これにともない、広報職員のコンテンツ制作技術力も向上しています。自治体の広報担当者ら自らが撮影、編集した動画をYouTubeにアップロードするなど、資産をためてきました。大阪府では2008年10月から700件の動画をストックしています。
ネットによる発信と紙による発信のすみ分け
紙の表現手段が限られているからといって、紙による情報発信手段が不要になるわけではありません。大阪府の広報広聴課は「インターネットによる情報発信はユーザーからのアクセスを待たなければならないが、広報誌は納税者に対して積極的にリーチできる媒体」と広報誌の役割を位置づけています。 大阪府は年9回、毎回304万部を新聞の折り込みと一緒に、登別市と豊中市はそれぞれ2万5000部、19万部を毎月各戸や事業所に配布しています。いずれも紙であるため、確実に各世帯に配布できるというメリットは捨て切れません。 自治体広報誌は、市政や府政の情報を直接、納税者に直接届けるという大切な役割を担っています。ほしい情報がある市民に対してはインターネットで情報を提供し、検索やソーシャルメディアによるリーチを狙い、自治体が広く知ってもらいたい情報は全世帯にリーチできる広報誌を活用していくというすみ分けです。 表現力が制限される紙だからこそ、スマートデバイスと相性のよいARが生きてくるというわけです。記事で紹介した自治体の広報誌は、ARとの連携をいずれも「お試し」と位置づけていますが、インターネットと紙というそれぞれの媒体の特徴を生かしていくという、広報の新しい可能性を感じさせる取り組みと言えるでしょう。