Netflix版『三体』にみる作り手の覚悟 原作の解体と再構築によって“笑って泣ける”ドラマに
話が進むごとに、原作『三体』から踏み込んだ展開も登場
オリジナルキャラで魅せる一方で、原作のキーパーソン、葉文潔は非常にしっかりと描かれている。時代や国家といった巨大な存在に虫ケラのように踏みにじられた彼女が、復讐心の塊となっていく姿は強烈だ。ちなみに、この過去パートが中心になる第1話・第2話話の監督は、『ソウルメイト/七月と安生』(2016年)や『少年の君』(2019年)を手掛けた香港青春映画の名手デレク・ツァン(父はエリック・ツァン!)。短い尺で少女がブッ壊れていく姿を見せ切るのはさすがの手腕である。 さらに話が進むごとに、原作から踏み込んだ展開も登場する。最も大きな改変は「古筝作戦」だろう。船が大変なことになるシーンなのだが、このアプローチは間違いなく原作ファンを困惑させるはずだ。本来ならエンターテインメント的なクライマックスのはずが、真逆と言っていいシーンになっている。しかし、それによって本作は非常に踏み込んだ、道徳的な問いかけの提示に成功した。これには作り手の覚悟を感じる。そして困惑しつつも、ここでブチ上げた問いかけに、どういうケリをつけるかも気になるはずだ。 ただ、原作ファン的には残念な点もある。特に史強の兄貴に相当する人物(兄貴と呼びたくなる人なんですよ)の存在感が薄いのは非常に残念だ。そして原作の「史強と汪淼の凸凹バディもの」という要素が完全に消えているのも辛い。ゲーム「三体」のビジュアルも、もっと変なものが出てくるかと期待していたので、少し肩透かし感もあった。パッと思いつくだけでも、こういった弱点は確かにある。正直、原作の熱烈なファンに対しては、「こちら、気に入るかどうか分かりませんが……」と腰の引けた姿勢を取らざるをえない。しかし『三体』に入門するか悩んでいる人にとっては、気軽に触れられる作品としてお出しできると思っている。これを気に入ったら原作に当たるもよしである。ともかく本作は『三体』の魅力をより多くの人に届けるためにと、高山善廣vsドン・フライばりに原作とがっぷり四つに組んだ実写化なのは間違いない。僕は普通に続編が観たいっス。
加藤よしき