熊本の鉄道・バス5社「Suica・ICOCAやめます」の衝撃!交通系ICカード撤退ドミノはどこまで広がるのか?
● 意外としがらみの多い「交通系IC」 対応・非対応で経費が倍違う! Suicaなどの交通系ICカードを鉄道・バスの運賃支払いに使うためには、カードと読み取り端末が、「日本鉄道サイバネティクス協議会」に準拠した、通称「サイバネ規格」に対応することが前提となる。かつ、JR東日本の系列会社からのカードリーダー購入や、規格の維持に必要な会費の支払いなど、高コストになってしまう要素がいくつもある。 今回、熊本県の鉄道・バス5社が交通系ICから撤退する最大の理由は、機器更新のタイミングだ。現在使用している交通系IC対応端末が更新の時期を迎えており、そのまま維持した場合は12.1億円かかるが、新しい機器(レシップ社製)に入れ替えた場合は6.7億円に抑えられるという。 かつ、国土交通省のキャッシュレス推進のスキームが「導入には補助を出すが、維持には出さない」という方針。交通系ICを維持すると、更新・運用ともに高コスト+補助が望めない一方、非対応化すれば低コスト+新たに国などから補助が見込めるということだ。 繰り返すが、交通系ICはしがらみが多く、維持するためのコストが高すぎる。費用負担の壁を越えられず、熊本県の鉄道・バス5社は交通系ICから撤退していくのだ。 なお、交通系ICへの対応には具体的にどれくらいかかるのか、情報の詳細は公開されていない。が、沖縄県でICカードの導入が検討された際、以下のような見積もりが出ている。 「独自規格なら導入は27億円・運営費は年間5000万円。交通系IC対応の場合、導入費用は2倍、年間経費4倍」(2014年・那覇市議会資料より) 対応する・しないで圧倒的なコストの違いがあり、その後、(サイバネ規格に対応しない)独自規格として15年にOKICA(沖縄県)のサービス開始につながった。
● SuicaのFelica規格はガラパゴス? 世界で「タッチ決済」導入の波 さらに、クレジットカードを端末にかざすだけの「タッチ決済」と、現行の交通系ICの将来性も絡んでくる。タッチ決済はすでに英ロンドンやシンガポールなど海外で広く普及しており、熊本県でも、空港方面へのシャトルバスが先行してタッチ決済に対応している。中国や台湾ではおなじみの銀聯カードで、さっと決済を済ませる人も多い。 一方で交通系ICは、準拠する「Felica規格」(ソニーが開発)が、タッチ決済などに広く使われる「NFC規格」に海外展開で遅れを取り、もはや日本独自の規格となりつつある。かつ、世界的な半導体不足からSuica新規販売の停止が続くなど、商品の供給にも苦しんでいる。要するに、今後もユーザーの増加が見込めるタッチ決済と比べると、交通系ICの成長性はいまひとつだ。 こうした諸事情から熊本県の鉄道・バス5社は、乗客の24%が利用する交通系ICへの対応を、打ち切らざるを得なくなってしまったのである。 しかし、タッチ決済を行うクレジットカードは、子供や高齢者が簡単に持てるものではない。熊本県では、機器更新後の支払い方法は、くまモンのICカード、タッチ決済に加えて、QRコード支払い(「my route」などアプリの活用)も想定しているという。