宇野昌磨「人に勝ちたい」より恩返し 独自の美学を貫いた競技人生21年
2度の五輪でメダルを獲得したフィギュアスケートの宇野昌磨(26)が5月14日、都内で会見を行い、プロ転向を発表した。AERA 2024年5月27日号より。 【写真】宇野昌磨をもっと見る * * * 「まさか僕が人前でこうやって喋れる人間になれるとは思いませんでした」 そんな茶目っ気ある言葉で、競技人生を振り返った。 「テレビで見ていたオリンピックの舞台で良い成績を残せるとは思いませんでしたし、世界選手権で優勝する選手になれるとは3、4年前までは思っていませんでした。フィギュアスケートに出合えて、感謝とともに、驚きのことばかりです」 元世界王者の引退だというのに、謙虚な言葉が並んだ。 会見で、今季の世界選手権の写真が画面に映し出されると、ふと表情を崩した。ショートで首位発進したものの、フリーでミスがあり総合4位。そのフリー直後にもかかわらず、満足そうな表情の写真だった。 「結果が振るわなかった時も、これだけ幸せそうな顔をできている。昔は、練習したことが試合でできないと落ち込んでいました。でも21年スケートをしてきて、『毎日積み重ねたことを(大切にして)しっかり笑顔で終えられる選手になれたんだなあ』と。小さい頃の僕が『こうなりたい』と思っていたスケーターに一歩近づけたと思います」 「こうなりたい」という言葉を強調する。まさに宇野流の美学を貫いた21年だった。 ■目標は「恩を返したい」 美学の一つは「結果を求めるのではなく、練習の成果を全力で出す」というもの。山田満知子・樋口美穂子両コーチに師事した幼少期から徹底してきた。 しかし、「人に勝ちたい」とは考えないモットーだからこそ、世界のトップで戦う実力をつけてからも2位という成績が続いた。2019年、21年の世界選手権は、あえて自分らしくない「勝ちたい」という思いを胸に戦うと、4位。メダルさえ逃した。 そこでたどり着いたのが、「ステファン(・ランビエルコーチ)を喜ばせるために優勝する」という考え方だった。23年の世界選手権では、こう語った。