森田哲矢「“ここをおろそかにしたら死ぬやろうな”という思いはあります」 さらば青春の光が売れてもなおライブにかける想い
森田哲矢と東ブクロによるお笑いコンビ「さらば青春の光」。多くのテレビやラジオのレギュラー番組を担当し、YouTubeチャンネルの登録者数は約136万人にものぼる。しかし押しも押されもしないようになった今でも、彼らは本業である舞台での活動を怠っていない。直近2024年の5月から8月にかけておこなった「ラッキー7」は、全国9都市で3万人を動員。ここでしか見られない新作ネタの数々を披露した「ラッキー7」は、11月20日(水)にはDVD「さらば青春の光 単独ライブ『ラッキー7』」となってリリースが決定している。そこでこの度、さらば青春の光の2人に同ライブの見どころや、単独ライブにかける思いを聞かせてもらった。 【写真】リラックスした空気感のなかに、変わらぬ熱を持つ「さらば青春の光」 ■「すごい数字になりました」過去を振り返る ――単独ライブ「ラッキー7」では3万席が完売と伺いました。段々とツアーの規模が広がってきていることについて、率直な感想を聞かせてください。 森田哲矢(以下、森田):いやぁ、ありがたいですね。しがないインディーズバンドが日本武道館まで来たぞ!みたいな感じですかね(笑)。このシリーズ最初の「会心の一撃」(2017年4月)は池袋の「あうるすぽっと」という会場で、2日間で300席×2公演くらいだったと思います。それを考えたら、すごい数字になりました。あのときはスタッフの数も少なかったのを覚えています。 ――毎回規模が大きくなっていってるので、単独ライブの予定を立てるのも楽しくなりますよね。 森田:そうですね。「次はどうしようかな?」と考えるのも楽しいですね。単独ライブということに関しては「東京03」さんという大きな目標というか、レジェンドがいますよね。世のコントをするコンビやグループが理想の形として「東京03」さんを目指していると思います。ただ僕らは“コントでここまで”ということは最初の頃は考えてなくて、「あれ?チケット売れるやん」と(笑)。 ――東ブクロさんは、単独ライブをやってきた中でどのあたりで手応えを感じましたか? 東ブクロ:“手応えがいつからあったか”というのはちょっとわからないですが、「会心の一撃」より前にも20~30人くらいの規模のライブをやってきていました。単独ライブは芸人にとってステータスというか、一つの到達点でもあります。それがデカくなっているのは、芸人としてもデカくなれているのかなという感じはしていますね。でもここまで大きくなると、「それはそれで」というところもありますね(笑)。 ――ファンの人の期待が大きくなり、それに応えるためにもどんどんスケールアップして…という心理的なプレッシャーもあると思います。 森田:はい。そういうプレッシャーみたいなものもありますが、それは言い換えたら“やりがい”があるということでもあるので。 ■一番大事な“顧客”はしっかり見えている ――「会心の一撃」に始まり、「真っ二つ」「大三元」「四季折々」「五穀豊穣」「すご六」「ラッキー7」と、続けてきたことが今回の3万席完売につながっていると思います。 森田:そうですね。続けてこられたことは大きいと思います。コロナ禍では中止になって残念でしたが再開できましたし、ソーシャルディスタンスやお客さんが声を出せないといった制限があった時期もありました。しかし今はほぼ通常に戻っているので、単独ライブの会場にも行きやすくなっているのかなと思いますね。 ――2024年が5月から8月の頭まで、2023年が5月から7月の上旬、2022年が5月から7月、1つ飛んで9月頭でした。ここ最近は同じ時期に単独ライブのツアーがスタートしているので、1年サイクルのなかで単独ライブが軸になっている印象があります。 森田:なんか、「これが終われば夏やれる」という感じがありますね(笑)。なので、夏が始まるまでに終わってほしいという気持ちはあります。 東ブクロ:年々公演の数が増えているので、始まる時期は一緒でも終わりがどんどんズレていきそうな気がするんですよ。さらに増えてツアーの期間が半年くらいになったりすると途方もないなぁなどと思っていたりします(笑)。でも需要があるというのはありがたいですし、地方でやれてるのもありがたい。東京のライブに地方から来てくれたりするのもありがたいので、そういう期待にも応えられたらいいなとは思ってます。お金を使って見に来てくれているというのは、僕らにとって本当にありがたいことなので。 森田:時間とお金を使って見に来てくれてる方が一番大事な“顧客”だと思うので、大切にしないといけないなって(笑)。 ――森田さんはお金のことも赤裸々に話されたりしてるので聞いてしまいますが、単独ライブはどうなんでしょうか? 森田:これね、思ってるより儲からないんですよ(笑)。人は単純計算で「儲かってる」って思うんでしょうけど、「チケット代がいくらで、動員数がこれくらいやからこんなに儲かってるやん」なんて単純なもんじゃないんですよ。 箱代、スタッフに支払う金、移動費、小道具を運ぶ代金とかを考えたら、労力に見合ってないかもしれないです。ただこれがもっと大きくなっていけば、みんなハッピーになれるんじゃないかとは思っています。年々、技術さんとかに対するギャラは上げていけてるので、なんとか!ようやく!売り上げとしても立ってきたなという感じです。 ――やっぱりそれだけの労力が必要なんですね。 森田:もともと「単独ライブがやりたい」みたいな感じでこの世界に入ってきたわけではないので。テレビで適当にふざけて“億”稼ぎたいって気持ちで入ってきました(笑)。でもこの世界で揉まれた結果、“自分たちのストロングポイントはここ(ライブ)なので、ここをおろそかにしたら死ぬやろうな”という思いはあります。 ■「チケットの取りにくさ」に感じる成長 ――単独ライブがここまでスケールアップできた理由を挙げるとすれば、どういう点でしょうか。 森田:単独ライブに関しては、演出をしてくれている(マンボウ)やしろさんの存在が大きいです。あの人が形を作ってくれることで、見に行くことが恥ずかしくない公演になっていて、見に行くことがステータスになる公演になっている感じなんです。それはめちゃくちゃ助かっています。チケット代に見合う内容にしてくれてますから。 ――ステージ演出とか含めてお任せできると、自分たちのやるべきこと、ネタづくりとかに集中できますよね。 森田:そうなんです。かなり自分たちの負担が減っています。 ――5月に単独ライブのツアーが始まるとすると、ネタづくりはいつ頃から始めるんですか? 森田:本当は10月とか11月くらい、今くらいの時期からソワソワするんです。性格がズボラなので「まだ大丈夫かな」という感じで年が明けてしまい、正月はガッツリ休んで、「あれ?まだ1本も上がってない」と焦り始める…という感じです(笑)。 毎年「次は早めに取り掛かろうな」と言っているんですが、結局同じ時期からのスタートになってしまっていたので、今年は今くらいから取り掛かろうとしています。今日も作家とネタ出しみたいな打ち合わせを喫茶店でしてきたんですけど、「まだなぁ、言うても」という感じで、取り掛かり始めたとはいえ、勝手に心に余裕を持ってしまっていて(笑)。 それはもう、この世界でしか生きられない人間のズボラさが出ていますね。ただ、「ラッキー7」よりは取り掛かりが早いです。 ――「ラッキー7」も大盛況でしたが、2023年と比べての変化といえばどういった点でしょうか? 森田:年々、ラストコントのブクロの感じなどで「お客さんがちょっと期待しているのかな?」と感じますね。前回の「すご六」の「タネ飛ばし」などのサイコパスな感じがウケていましたし、「ラッキー7」もラストコントの「憧れのおじさん」も期待値が高い感じがありました。 東ブクロ:そうですね(笑)。お客さんの熱量は年々高くなっている感じはします。もちろんこれまでもすごく盛り上がってくれていますし、楽しんでくれているのは伝わってきています。しかし一方で、その勢いが年々すごくなってきているというのも感じるんです。 ありがたいことにチケットが取りにくくなったり、競争も激しくなってきている。「取ろう」という意識を持って抽選に応募してくださって、本番までのワクワクが高まっているから本番当日の熱量がすごいのかなと…。「笑いたいんやろうな」というお客さんの気持ちは去年よりも強く感じました。 森田:オープニングで明転した時の雰囲気が、昔と違うんです。ザワザワ感というか(笑)。ただザワザワ感が強いと浮き足立った感じになってしまうと思うので、そこは僕らが抑えようというか。「ザワザワすなよ。浮き足立つなよ」と少し圧をかける感じはあります(笑)。 ■「一回、劇場に見にきたらどうですか?130万人の方々?」 ――コロナ禍以降、ライブや舞台などを配信するという選択肢もあったと思います。 森田:「ラッキー7」も千秋楽だけは配信しました。生で見たいというのもわかりますけど、時代的に「配信の方が楽ですよ」とは言いたいです(笑)。自分も誰かの公演を見に行きたいと思いますけど、「あ、配信あるんか。じゃあ配信で見るか」という思考に。コロナ禍を経て自分もそうなってきているくらいですから、生で見てもらえるのがありがたいですけど、配信で見てもらえるのもありがたいです。 チケット買って会場まで足を運んでくれる人は本当にありがたいと思いますけど、配信で見る人も配信チケットを買って見てくれるワケなので。僕らとしてはめちゃくちゃありがたいです。 ――さらに、DVDというパッケージを買ってくれる人というのは。 森田:これを買ってくれるのが一番の、真のファンですよ!(笑)。真のファンと思われたかったらぜひ買ってください!パッケージのデザインも集めたくなるようなものにしてます。 単独ライブはそれぞれタイトルに数字が入っていて、パッケージは毎回色を変えてたりしています。並べておくのもいい感じだと思うんですよ。「ラッキー7」のパッケージもかっこいい感じに仕上げてもらってるので。 ――タイトルに毎回数字が入ってるというのは、「会心の一撃」のときからそういうふうにしようと決めていたのでしょうか? 森田:単独ライブのタイトルをつけるのが一番難しいというか、めんどくさいんですよ(笑)。ちょっとおしゃれなタイトルを、コントの人って付けがちじゃないですか。そういうのは小っ恥ずかしいタイプなので、数字の「一」から順番に入ってればいいかって感じで付けています。 すると段々、次のライブタイトルをファンの人たちが予想してくれるようになったんです。「ラッキー7」の場合は“みんなが絶対に予想せんやろうな”という意図で付けました(笑)。数字の「7」といえば真っ先に出てくるのが“ラッキー7”ですよね。灯台下暗し(笑)。「こんなベタでダサいタイトルにせんやろ」っていうファンの考えの裏をかいた感じですね。 東ブクロ:一番は“タイトルの引き”もありますが、オープニングがしっくりくるのがライブ的にもいいんだろうなと思うんです。今回もオープニングが良かったし、そこがリンクするときが気持ちいい。お客さんも没入しやすいと思うので、「ラッキー7」は良いタイトルだと思いました。 ――今後もまだまだスケールアップしていくと思いますが。 森田:劇場でのコントを見たことがなく、YouTubeしか見ない人もたくさんいると思います。でも「こんなんもやってるよ。一回、劇場に見にきたらどうですか?130万人の方々?」って思いますよね(笑)。 ――YouTubeチャンネルの登録者数が約136万人なので。 森田:そう考えると3万席って“まだまだやな”と。ありがたいんですけどね。 東ブクロ:DVDを買ってくれる人は、実際に見にきてくれた人とか配信で見て「面白かったからもう一回見てみたいな」と思ってくれた人だと思うんです。でもDVDが店頭に並んだとき、「あ、さらばのDVD出てるんや」といって手に取ってくれる人がいたらうれしいですね。それで単独ライブをやっているのを知ってくれたりすると、それはそれで来年にもつながるんじゃないかなと思うので、ぜひ。 森田:ジャケ買いしてくれてもいいですよ。ガイ・リッチー監督の映画作品みたいなジャケットになっているので(笑)。このインタビューを読んで興味持った人も、ぜひ手に取ってもらえたらなと思います。 ◆取材・文=田中隆信