デビュー25周年!“マスター・オブ・Jホラー”清水崇の軌跡…『呪怨』から『あのコはだぁれ?』へ
Jホラーブームを牽引した「呪怨」シリーズから、コロナ禍に異例のヒットを記録した「恐怖の村」シリーズまで、長きにわたってJホラー界のトップランナーとして走り続ける清水崇監督が、今年監督デビュー25周年イヤーを迎えた。今夏に公開された最新作『あのコはだぁれ?』(12月4日Blu-ray・DVD発売&デジタル配信開始)も、興収11億5000万円を超えるヒットとなったことは記憶に新しい。そこで本稿では、そんな“マスター・オブ・Jホラー”清水崇監督の軌跡を一気に振り返っていこう。 【写真を見る】オリジナルの「呪怨」から最新作『あのコはだぁれ?』まで、ホラー作品を振り返る! ■日本人監督初の快挙!北米No.1を2度も達成 20代前半からフリーの助監督としてさまざまな現場を経験してきた清水監督のキャリアは、1997年に立ち上げられた映画美学校(当時は映画技術美学講座)を足掛かりとして本格的にスタートした。プロの現場での助監督業の傍ら、そのフィクションコース初等科の第1期生として映画を学び、時折協力していた自主制作仲間の協力のもと課題で作りあげた短編が、当時講師をしていた黒沢清や高橋洋らを驚愕させる。それがのちにJホラーの歴史を変えることとなる「呪怨」シリーズの原型になった『家庭訪問』という短編だ。 その後、黒沢の紹介によって、こちらも「呪怨」シリーズと密接に繋がっている「学校の怪談G」のなかの短編「片隅」「444444444」を手掛け、さらに高橋の推薦によってプロデューサーの一瀬隆重と出会いオリジナルビデオ版『呪怨(2000)』、『呪怨2(2000)』を発表。リリース当初は売上があまり伸びなかったが、徐々に口コミで「ものすごく怖い」と噂が広まり、注目を集めていく。 伊藤潤二の人気漫画を原作とした「富江」シリーズの第3作『富江re-birth』(01)で劇場映画監督デビューを果たすと、続けざまに劇場版の『呪怨』(03)と『呪怨2』(03)を制作。テアトル新宿をはじめとしたミニシアターでの公開ながら連日劇場には長蛇の列ができ、記録的な大ヒット。そのムーブメントは瞬く間に世界へと広がり、サム・ライミ監督のプロデュースのもとでハリウッドリメイクが決定する。 ハリウッドでも自らメガホンをとった清水監督は、リメイク第1作の『THE JUON 呪怨』(04)で日本人監督史上初の北米週末興収ランキングのNo.1を獲得、北米興収1億ドルを突破する快挙を達成。続編の『呪怨 パンデミック』(06)でもメガホンをとり再び北米No.1を成し遂げ、世界的ホラー監督の仲間入りを果たした。 ■3Dホラーから新進作家の発掘まで!様々なアプローチでホラー映画界を牽引 近年ではジャンルの第一人者として、日本初のホラー映画専門フィルムコンペティション「日本ホラー映画大賞」の選考委員長を務めるなど、後進の発掘と育成にも取り組んでいる清水監督。大賞の受賞監督に商業映画デビューが確約される同賞からは、すでに2名の新たな才能が生まれている。第1回で大賞に輝いた下津優太監督は『みなに幸あれ』(24)を手掛け、海外の映画祭でも好評を獲得。第2回の大賞に輝いた近藤亮太監督も『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(2025年1月24日公開)が待機しており、どちらも清水監督が総合プロデュースを務めている。 第2回に続き、堀未央奈、FROGMAN、小出祐介、宇野維正、ゆりやんレトリィバァらが選考委員を務める「第3回日本ホラー映画大賞」も先日募集が締め切られ、いま選考の真っただ中だ。各部門に選出された作品の上映会が11月15日(金)に、大賞が発表となる授賞式が11月16日(土)にそれぞれグランドシネマサンシャイン 池袋で開催されることがアナウンスされており、第3回ではどのような才能が発掘されるのか、注目したい。 そうしたホラー界の未来やホラージャンルの可能性を広げるための積極的な姿勢は、Jホラーブームの真っただ中だった2000年代からすでに窺える。「呪怨」シリーズの合間に、ホラーとコメディが融合した競作短編オムニバス「幽霊VS宇宙人」シリーズを自主制作。『怪談 こっちを見ないで…』(03)や『怪談 轢き出し地獄』(03)、『幽霊VS宇宙人 ロックハンター伊右衛もん』(07)などを手掛ける。 特に前2作は自主上映にも拘わらず会場に入りきれない集客を見せ、来場していたテレビ局や映画会社のプロデューサーから声が掛かり、深夜枠のテレビシリーズ「怪奇大家族」へと発展。一線級の監督たちと若手監督による競作企画「映画番長」シリーズでは、550万の製作費で『稀人(まれびと)』(04)を手掛け、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭でグランプリ(金鴉賞)を受賞した。 さらに一瀬のプロデュースのもと、黒沢清監督や中田秀夫監督らJホラーを牽引する監督たちがこぞって参加した「Jホラーシアター」の第2弾作品として手掛けた『輪廻』(05)は、ゼロ年代を代表する傑作として、いまでもホラーファンから熱烈な支持を集めている。また夏目漱石の小説を原作に、市川崑監督や実相寺昭雄監督ら錚々たる顔ぶれが参加したオムニバス映画『ユメ十夜 第三夜』(07)では、おぶった子どもがみるみるうちに重くなっていく不気味なストーリーで、才気を遺憾なく発揮した。 そして2000年代末ごろからは、文字通りホラージャンルの“進化”を試みたことも。富士急ハイランドにある人気アトラクションを題材にした『戦慄迷宮3D』(09)に、満島ひかり主演の『ラビット・ホラー3D』(11)と、当時流行していた3D技術をホラー映画に落とし込む。また、体感型上映システムとして当時日本国内に導入されたばかりだった「4DX」の専用映画として『雨女』(16)も製作。最新鋭の映画技術を活かしながら、ホラーの先鋭的表現を模索し続けてきた。 ■「恐怖の村」と“さな”で、コロナ禍以降のホラーブームを盛り上げる! 『こどもつかい』(17)から3年のブランクを開けて発表した『犬鳴村』(20)から始まった「恐怖の村」シリーズは、『樹海村』(21)、『牛首村』(22)と毎年連続するように公開され、いずれもヒットを記録。コロナ禍での巣籠り需要以降、再燃していったホラーブーム。その中心にいるのも、やはり清水作品だった。特に、コロナ禍以降すべての制作がストップしていた邦画界にとって、制作再開の先陣を切ることとなった『樹海村』は感染者を出さずに完成させ、止まりかけた映画制作の文化を推進し不安を払拭したとして、文化庁からも称賛を受けた。 国際的な評価がふたたび高まってきたのもこの時期だ。『犬鳴村』は心霊ホラーが御法度の中国で、ジャ・ジャンクー監督が主宰を務める第3回平遥国際映画祭から異例の招待を受け、ワールドプレミア上映。2700年の歴史を誇る山西省の平遥古城の会場でのチケットは完売し、約2000人収容の客席を満席にした。また『樹海村』がポルト国際映画祭で最優秀作品賞(グランプリ:ファンタスポルト2021)を受賞したのをはじめ、『牛首村』が公式上映された2022年の「ニューヨーク・アジアン映画祭」では、清水監督が岩井俊二監督、原田眞人監督に続いて日本で3人目となる、スター・アジア・ライフタイム・アチーブメント賞(功労賞)を受賞。『忌怪島/きかいじま』(23)では、第19回ポルト・アレグレ国際ファンタスティック映画祭、通称ファンタスポアの歴史上初めて、悪役に与えられる「最優秀悪役賞」が贈られた。 昨年には『忌怪島/きかいじま』と『ミンナのウタ』(23)の2作が公開。特に後者は「呪怨」シリーズを彷彿とさせつつも進化したホラー演出が支持を集め、さらには新たなホラークイーン“さな”を誕生させる。その『ミンナのウタ』のDNAを引き継ぐ新作として公開された『あのコはだぁれ?』は、今夏若者を中心にSNSなどで話題となり、先述のようなヒットを達成した。 以前MOVIE WALKER PRESSで実施したロングインタビュー企画「Ask Me Anything」では「まさかこんなにずっとホラー映画ばかり撮り続けることになるとは思っていませんでした」と語っていた清水監督。これまで手掛けてきた劇場映画の多くがホラー作品というフィルモグラフィを持つ一方で、意外なことに少年時代にはホラー映画が苦手だったとも明かしている。 ホラーファンはもちろん、怖いものが苦手な人々の気持ちも理解していることこそ、こうして長きにわたって第一線で活躍できる理由なのかもしれない。「ホラー映画が苦手な人ほど、思い込みで食わず嫌いになってしまっている。だから、そうじゃないんだよって扉を開いてあげたい」と、さらにホラーというジャンルの間口を広げていく意欲を語っていた清水監督。今後どんな恐怖を我々に見せてくれるのか、次回作も大いに楽しみだ。 ■清水崇作品、どれが怖かった?投票企画が実施中! 「MOVIE WALKER PRESS」のホラーに特化したブランド「PRESS HORROR」では現在、当記事で紹介した清水崇監督の手掛けたホラー作品が「怖かった」か、「怖くなかった」かを聞く投票企画を11月17日(日)まで実施中だ。 今回の投票企画の集計結果は「PRESS HORROR」の記事や公式Xにて発表予定。はたして、清水崇作品で“もっとも怖い映画”はなんなのか?清水監督の作品を一本でも観たことがある人は、是非とも投票に参加してみてほしい! 文/久保田 和馬