『燕は戻ってこない』“ビジネス”だったはずの代理出産が破綻 揺らぐ“基”稲垣吾郎の価値観
“遺伝子”にこだわっていた基(稲垣吾郎)の価値観が揺らぐ
そして、皮肉にも今回の出来事で千味子と悠子の間で加害者の絆が生まれる。悠子はどこかでホッとしたのではないだろうか。リキが妊娠している子の父親が誰だかわからないという秘密を一人で抱えきれなくなった悠子は基に打ち明ける。自らの遺伝子を継ぐ子を望んでいた基は、それを知ったらきっとリキを非難するだろう。だが、基にもある心境の変化があった。 リキが助けを求めた時、基は生徒とその親と三者面談中だった。バレエ留学のスカラシップを狙う息子の母親は、サラブレッドでもない自分の子供がバレエの世界で生き残っていけるとは思えず、不安に感じていた。そんな彼女に基は、親の職業や才能で子供の人生が決まるのか、子供が努力を放棄する理由になるのか、と反論する中で自分の矛盾に気づく。日本人初の国際的バレリーナである千味子の息子として生まれ、自身もトップバレエダンサーに上り詰めた基。それが遺伝子によるものだという周囲の評価に納得する部分もあり、だからこそ自分もその遺伝子を次に繋げていこうとした。けれど同時に、バレエダンサーとしての実績は自分の努力で勝ち取ったものであると抵抗する気持ちがあったのではないだろうか。その気持ちを自覚した基が、リキの子供が自分と血が繋がっていない可能性を提示された時に、どういう行動を取るのか興味がある。 一方、母性がないから代理母に向いていると思っていたリキも、咄嗟にお腹を庇うようになった自分の変化に戸惑っていた。誰もが上手くいくと信じようとしていた代理出産プロジェクトはガラガラと音を立てて崩れていく。りりこではないが、その結末を心して見届けたい。
苫とり子