建築家が考える「世界一の豪邸」とは?廣部剛司さんが選んだのは、あのメキシコの巨匠建築家による自邸だった…!
現在、活躍する建築家の心をとらえた「豪邸」とそのエピソードを尋ねる連載。 過去に8カ月間にわたる世界の建築旅行を経験した廣部剛司さん。訪問した建築や空間は、ほぼすべてスケッチされているそうです。建築家ならではの視点で描かれたスケッチは、卓越した観察眼で見る人を魅了します。そんな廣部さんの心を捉えた「豪邸」と、その理由を伺いました。 【写真集】建築家・廣部剛司さんが選んだ「世界一の豪邸」はメキシコにあった!
廣部さんが選んだ“世界一の豪邸”は「ルイス・バラガン邸」(メキシコ)
メキシコの建築家、ルイス・バラガンが設計したメキシコのメキシコシティに立つ自邸を「世界一の豪邸」に選んだ廣部さん。その理由を次のように語ります。 「外部からはそれと気付かないほど簡素な佇まい。しかし一歩足を踏み入れた瞬間に、その豊かで静謐な空気感に魅了され、実はかなりの豪邸であることを室内を巡っていくうちに気づかされます。というのも、ゆったりした空間でありつつも、各居場所が建築とヒューマンスケールの心地よい距離感を保って設計されているからでしょう。朝の時間、友人たちを招いたとき、ゆっくり考え事をしたいときなど一日のなかで、または季節ごとに、心地よい場所を“選んで過ごす”贅沢さも、この家では実現しています」
メキシコが生んだ偉大な建築家、ルイス・バラガン
ルイス・バラガン(1902-1988)は、メキシコのグアダラハラ出身。1923年にグアダラハラ自由工科大学を卒業した後、メキシコシティに拠点を移します。カラフルで大胆な色彩、水や光を取り入れた建築で没後も世界各国にファンの多い建築家です。都市計画家として住宅開発も多く手掛けました。1976年にはニューヨーク近代美術館で回顧展が開かれ、1980年プリツカー賞を受賞。自邸兼アトリエのバラガン邸は、2004年にユネスコの世界遺産に登録されています。
廣部さんにとっての「豪邸」とは?
「住宅建築の価値は、そのスケールだけに依存するわけではない。という大前提に立ったうえで、『豪邸』とは、選び取れる『道』の多い家なのではないかと思います。建築の設計は無数の選択肢の中から、一本の道を見出していくような作業。その選択肢が多ければ、おのずと空間は変質していきます。音楽がテンポ、音色、和音が変化するとまったく違う曲になるように、建築もその条件次第で、そこに込められる情景の多様性が変化していくと考えています」 このように自らが考える「豪邸」の定義について語ってくださった廣部さん。「情景の多様性」という言葉は、まさに廣部さんが紡ぎ出す建築空間を象徴しているようで印象的です。