澤を生かすための新布陣はW杯で機能するか
守備で強さを発揮する川村が後方をカバーしてくれている、という安心感からか。前線から自陣までの広範なエリアで澤は相手に果敢に食らいつき、幾度となくボールを奪取した。攻めても本来の左サイドに戻り、長短の正確なパスで攻撃を差配するキャプテンのMF宮間あや(岡山湯郷Belle)とのコンビネーションで相手を翻弄した。 澤が代表から遠ざかっていた間は、宮間がボランチに入ることが多かった。しかし、157cm、52kgの小さなサイズはどうしても大柄でフィジカル的にも強い外国勢の標的となる。そうしたストレスから解放されたことが、宮間が不動のキッカーを務めるセットプレーにも好影響を与えたのだろう。 前半24分。日本が獲得した4本目のコーナーキックで、宮間は初めてファーサイドを狙った。相手のマークを外し、以心伝心で飛び込んできたのは澤。相手GKが一歩も動けない、右足によるジャンピングボレーが千金の決勝点となった。 「あやのボールがよかった。本当に触るだけだった」 36歳260日となでしこジャパンの最年長出場記録を塗り替えた一戦で決めた、代表通算83得点目。ラモス瑠偉の36歳85日を大きく超える、男子を含めての代表史上最年長ゴールをも歴史に刻んだ澤は、攻守両面で満足のいく復帰戦だったと振り返っている。 「みんなに声をかけるのもそうですけど、ボールを奪うときに体を張ってスライディングするとか、得点をとるとか、私としてはそうやって背中で見せることが役割だと思うので。W杯につながる試合がしたいと思っていましたし、こうして相手をゼロで終えられて、勝ち切ったことで大きな、意味のある試合だったと思います」 カナダ大会に臨む23人の代表のうち、前回ドイツ大会のメンバーは実に17人を占める。この間、佐々木監督は代表歴の少ない中堅や若手を積極的に起用して世代交代を図ってきたが、最終的には世界制覇を勝ち取った経験をより凝縮させて連覇へ挑む道を選んだ。 澤を実質的な大黒柱に据えたのは、指揮官の覚悟の象徴でもある。一方で既存のメンバーのプレースタイルや特徴はライバル国にも熟知されている。だからこそ、数少ない新戦力の一人である川村は自らが置かれた立場を理解している。 「4年前は実力が伴っていなかったけど、いまは自分が主力を奪うくらいの強い気持ちでいかないと競争は生まれないし、チーム力も上がっていかないと思っている。もっと周りの選手を動かして、自分のところでボールを奪いたいし、ポゼッションするためにどこで受けたらいいのか、どこへ走ってスペースを空ければいいのかという判断も速くしないといけない。課題がたくさん見つかりましたし、そこを修正していけば絶対によくなる。今日の試合を絶対に無駄にしません」 前半途中の接触プレーで左の上腕部を強打。試合中はサポーターを、試合後にはアイシングを施されていた、澤を輝かせるための秘密兵器は「打撲です」と心配無用を強調しながら、W杯前では最後の実戦となる28日のイタリア女子代表戦(南長野)を見つめていた。 (文責・藤江直人/スポーツライター)