大卒と比べて中卒・高卒は「肺がん」や「脳血管疾患」の死亡率が高い 国内初の研究結果
今回の研究が実施された背景は?
編集部: 今回、国立がん研究センターが初めて学歴別による全死因の死亡率を出した背景には、どのような理由があったのでしょうか? 久高先生: 研究グループが着目したのは健康格差という考え方です。健康格差とは、教育歴や職業、所得などの社会経済状態によって健康状態に系統的な差がある状態のことです。日本でも、2013年の「健康日本21」で初めて健康格差の縮小が全体目標に含まれました。 個人の健康に影響を与える社会的要因は「健康の社会的決定要因」と呼ばれており、健康格差を小さくすることは公衆衛生上の重要な課題でした。この健康格差をモニタリングする指標として、教育歴が国際的には広く用いられています。日本では政府統計による体系的なモニタリングや国際比較研究などはおこなわれているものの、教育歴ごとの死亡率の統計データはありませんでした。今回、研究グループは、国勢調査と人口動態統計が共通して持つ情報を用いてデータリンケージする方法を採用し、教育歴と死亡率の関連を死因ごとに分析して、日本の健康格差の実態を明らかにすることを目的に研究を実施しました。
国立がん研究センターが発表した内容への受け止めは?
編集部: 国立がん研究センターが発表した内容についての受け止めを教えてください。 久高先生: 教育歴ごとの死亡率の差が大きい死因には、喫煙や飲酒などの生活習慣が関与する病態が多いことが示されました。教育歴だけでなく、個人の健康リテラシーや所得などの経済因子を介して死亡率に影響を与えていると考えられます。教育歴を1つの参考として患者の健康教育などに濃淡をつけることも重要ですが、何より教育歴による不適切な差別につながらないよう患者に配慮した診療が求められます。
編集部まとめ
国立がん研究センターは、国勢調査と人口動態統計をもとにして、学歴別の全死因による死亡率を推計したことを発表しました。海外では既に統計として運用されているデータですが、今回の取り組みが日本で初めてのことになり、大きな注目を集めています。
【この記事の監修医師】
久高 将太 先生(琉球大学病院内分泌代謝内科) 琉球大学医学部卒業。琉球大学病院内分泌代謝内科所属。市中病院で初期研修を修了後、予防医学と関連の深い内分泌代謝科を専攻し、琉球大学病院で内科専攻医プログラム修了。今後は公衆衛生学も並行して学び、幅広い視野で予防医学を追求する。日本専門医機構認定内科専門医、日本医師会認定産業医。