なぜ北朝鮮はミサイル連射?“頭の痛い”安倍政権 /辺真一「コリア・レポート」編集長
北朝鮮が6月29日に日本海に向け発射した2発のミサイルは日本の領海からほど遠いところに着弾したことから日本を標的にした発射実験ではありませんでした。しかし、スカッドCと称される射程500キロのこのミサイルが38度線に配備されれば、韓国全土が網羅されます。従って、29日のミサイルも、またその3日前の26日の射程190キロのロケット弾(KN-09)も、さらに7月2日の射程180キロのKN-09も韓国軍及び在韓米軍を攻撃対象にしていることは明白です。 【図表】北朝鮮ミサイル これまでの主な発射まとめ
米韓中へのけん制が狙いか
この時期に強行した狙いは、韓国が直前に西海(黄海)の延坪島付近で北朝鮮に向け射撃演習を実施したこと、米国が金正恩第一書記の暗殺をモチーフにした映画の製作、上演を黙認しようとしていることへの北朝鮮の反発と言えなくもありません。北朝鮮は25日には外務省の名で、26日には人民軍西部前線司令部の名で米韓両国に対して「対抗措置」を示唆していました。同時に8月に予定されている米韓合同軍事演習「フリーダムバンガード」を中止させるための「威嚇」と断じることもできます。 米韓への牽制だけでなく、中国を牽制することにも狙いがあります。 中国の習近平主席が7月3~4日、訪韓します。朴槿恵大統領との会談では北朝鮮に非核化を促すことは明らかです。北朝鮮は28日付の労働新聞の論説で「帝国主義者のいかなる強権にも、また大国主義者らの圧力にも屈しない」と強調していました。「帝国主義者」とは米国のことですが、「大国主義者」は中国を指します。習近平訪韓を前に中国が何を言おうが、核もミサイルも手放さないとの意思を行動で示したと言えます。
ミサイルの種類や性能は
北朝鮮は今春、9回にわたって短距離ミサイルやノドンミサイルなどを延べ90発発射していますが、一度も公式に発射を認めたためしがありません。今回は異例にも25日の発射体は「超精密誘導弾」で、30日は「戦術ロケットを発射した」と公表しています。発射実験に成功し、性能の向上に自信を深めたから発表したものとみられます。 「超精密誘導弾」ならば、巡航ミサイルの可能性が高いと言えます。低高度を超音速で迂回航行しながら目標物に命中するため迎撃は困難です。これをムスダン中距離ミサイルや大陸間弾道ミサイルKN-08に転用されれば、米本土にとっても脅威です。スッカドミサイルも、目標物をピンポイントで叩ける戦術ミサイルとして使用できる水準にまで達しているなら、韓国に駐在する米韓連合軍にとって大きな脅威となります。
拉致再調査と制裁緩和への影響
安倍政権は「今回のミサイルは直ちに日本の領土あるいは、日本国民に重要な影響を及ぼす飛翔ではない」(小野寺防衛相)として深刻には捉えていません。 しかし、今回のミサイル発射が国連の制裁決議に違反しているとして国連安保理が北朝鮮に対する制裁を強化した場合、拉致再調査開始の見返りとして制裁を緩めようとする日本への国際社会の風当たりは強くなるでしょう。 国連安保理に協調して、制裁解除を撤回すれば、再調査、拉致問題の進展は望めず、さりとて、制裁を緩めれば、国連決議に背くことになり、安倍政権にとっては頭の痛い問題となるでしょう。